こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

クローバーフィールド/HAKAISHA

otello2008-04-07

クローバーフィールド/HAKAISHA CLOVERFIELD

ポイント ★★★★
DATE 08/4/5
THEATER THYK
監督 マット・リーヴス
ナンバー 82
出演 マイケル・スタール=デヴィッド/リジー・キャプラン/ジェシカ・ルーカス/T・J・ミラー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


街が破壊されているのに、詳細な情報は入ってこない。ただただ、空から降ってくる瓦礫を避け、襲い掛かってくる何者かから逃げるだけ。避難場所はどこにあるかも不明、動員された重装備の軍隊もいつの間にか殲滅されている。命の危険を感じながらも何が起きているのか分からない不安と恐怖、登場人物が録画した事件の一部始終という体裁の主観映像を見せることで圧倒的な臨場感を生む。そのなかで人間の感情も繊細に描きこむ演出は、見るものの心に直接大きなインパクトを与える。


ロウアーマンハッタンで開かれたロブのお別れパーティの最中、轟音と共に自由の女神の頭部が空から降ってくる。気がつくとビルは崩れ、道路は炎に包まれている。ロブは喧嘩別れした恋人・ベスを救うため、3人の仲間とミッドタウンを目指す。


物語の「起」と「結」を省略し、ゲームに途中参加するような居心地の悪さと、結末まで見届けられない歯がゆさを残しながらも、見事な完成度。古いテープにパニックの様子を上書きしているために、途切れた部分から幸せだったころのロブとベスを映したした風景が所々散見し、過去と現在の落差をさりげなく表現する小技もみせる。特に最悪の一日の最後の言葉が「いい一日だった」というエスプリの効かせかたは思わずひざを打つった。


やがてロブたちは、この災害が謎の巨大生物によってもたらされたことを知り、地下鉄の線路伝いに北上する道を選ぶ。しかしここでもこの生物の幼虫に襲われ仲間を失う。それでもロブはベスを救出するが、結局セントラルパークで命運が尽きる。この間ずっと、めまぐるしく揺れ、ぶれ、動き回り続けるハンディカメラがとらえた素人ビデオ風映像が、観客にロブたちと行動を共にしているような感覚を味あわせてくれる。体験型アトラクションムービーとでもいうのだろうか、エンドロールが始まってやっと観客は自分たちが廃墟のニューヨークではなく安全な客席にいることに気付くのだ。そして、一切説明されなかった巨大生物の正体とその後に思いをはせることで、想像力を刺激するという映画本来の役割もきちんと果たしている。


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