こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

大いなる陰謀

otello2008-04-21

大いなる陰謀 LIONS FOR LAMBS


ポイント ★★
DATE 08/4/18
THEATER THRP
監督 ロバート・レッドフォード
ナンバー 95
出演 メリル・ストリープ/トム・クルーズ/ マイケル・ぺーニャ/アンドリュー・ガーフィールド
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


泥沼の中東情勢の中で起死回生の一発を狙う上院議員、彼の立案した作戦を実行に移すべくアフガンに派遣された特殊部隊、そして敵地に取り残された特殊部隊員の恩師。自分たちの利益を安全保障にすりかえるネオコン政治家の指揮の下、不確かな情報で戦争が起こされて若い命が散っていく。いまや星条旗を掲げて戦場で闘うのは下層階級のマイノリティという現実と、その陰で国が間違った方向に進もうとしていることに無関心でいる罪。ロバート・レッドフォードは自ら教授に扮し、若い学生、つまり観客に向かってたいそうなご高説を垂れる。しかし、守られるべきはあくまで米国民の命のみで、非米国民から見ればこの教授もネオコン議員と五十歩百歩にしかみえない。


アーヴィング上院議員はジャニーンというジャーナリストのインタビューを受け、米軍が新たに展開するアフガン侵攻作戦の意義を訴える。アフガンでは敵の反撃を受けた特殊部隊員のロドリゲスとフィンチが雪山で孤立、包囲されてしまう。カリフォルニアの大学ではマレー教授がトッドという学生の成績について話すうちにかつての教え子だったロドリゲスとフィンチの向上心を語る。


エリート中のエリートであるアーヴィングと学費稼ぎのために入隊した貧困層出身のロドリゲスとフィンチが好対象だ。自由かつ平等であるべきはずが、その出自だけで差別される。もちろんアーヴィングも才能の他に人並みはずれた努力をしただろうが、その成果を野心の実現に利用するのに対し、ロドリゲスらは社会の貧困層に教育の機会を与えようという目標を持っている。まるで負の比例のように、地位と理想は前者が高くなるほど後者はエゴにまみれていくのだ。


ジャニーンはスクープを手にしたにもかかわらず、放送をためらう。それはかつてイラク戦争を支持し、政権を監視するというジャーナリストの役目を怠った過去への反省。またトッドはロドリゲスらの戦死の報に触れ、世界に広く目を向け不正義を感じ取る意識に目覚める。ただその過程で「レッドフォード大先生のお説教を拝聴する」という映画のトーンは鼻に付いた。


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