こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

愛おしき隣人

otello2008-04-28

愛おしき隣人

ポイント ★★★
DATE 08/2/25
THEATER 映画美学校
監督 ロイ・アンダーソン
ナンバー 47
出演 ジェシカ・ランバーグ/エリザベート・ヘランダー/ビヨルン・イングランド/レイフ・ラーション
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


そこに人がいる限り、物語は生まれる。語るべき相手がいれば自分の思いをぶつけ、愛する対象があれば同じ時間を共有したいと願う。どこにでもあるような小さなハプニング。他人から見ればばかげたこと、小さなことも当事者にとっては一生を揺るがしかねない場合もある。そんな市井にあふれた小市民の織り成す風景を、退色させたうえに砂をまぶしたようなトーンのソフトな映像で活写する。各エピソードは前後の脈絡なく散文詩のようにちりばめられ取り留めのない印象を受けるが、カメラの視点はあくまでも優しさに満ち、ユーモアがあふれた語り口は見るものに隣人に対する温かい気持を思い出させる。


北欧の街、アパートの一室で転寝をしていた男が悪夢から目覚める。公園ではカップルは別れ話、小学校の教師とカーペット店販売員は夫婦喧嘩、精神科医は患者の愚痴を聞かされることに我慢できなくなる。


その他、多岐にわたる人物が登場するのだが、彼らに共通するのは「ツイていない」ということ。老後の生活資金を銀行の言うままに投資して損をした男のボヤキなどどこか深刻だが、理髪師を怒らせてスキンヘッドになった男や、切符販売の列に並ぼうとしてモタモタする男の描写など、多少の誇張も共感できる部分があり、心をくすぐる術を心得た演出が光る。


爆撃を受けて目覚める男だけでなく、食器を壊した罪で電気椅子にかけられる男など、夢の中の出来事も同列に描かれている。まる覚醒時との境界などないかのように、その情景は現実と同様にツキに見放されている。唯一、ミュージシャンと結婚する女の子が幸せな夢を見るが、潜在意識の中でしか満足できないほど、実際の彼女はツイていないのだ。最後に巨大な爆撃機の編隊が空を覆い尽くすが、このイメージこそ映画の始まりであり終わりである。それは、生きている限り人生は続き、ツキのない日常を繰り返すというメッセージ。人間は、小さな不幸を乗り越えることに喜びを見出すのだ。

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