こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

春よこい

otello2008-06-09

春よこい

ポイント ★★*
DATE 08/5/21
THEATER 科学技術館
監督 三枝健起
ナンバー 121
出演 工藤夕貴/西島秀俊/時任三郎/吹石一恵
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


新聞記者によるペンの暴力がもたらす恐ろしさ。いかに犯人逮捕のためとはいえ、子供をダシにして一見感動的な記事の体裁をとるという偽善極まりない行為を正当化することはできない。さらし者にされた殺人事件容疑者の家族はやっと取り戻した平穏な暮らしを奪われ、報道を読んだ人は急にその家族と距離をとり始める。しかも、傷つけた子供の心を他人に指摘されるまで気付かない鈍感さ。こんな男に新聞記者を名乗る資格はなく、映画の後半、改心してもこの男を信用できなかった。


借金取りを誤って死なせてしまった尾崎は妻子を残してそのまま逃亡する。4年後、指名手配犯のポスターで尾崎の写真を見た息子のツヨシは思わず「とうちゃん」とつぶやく。新聞記者の岡本はその様子を隠し撮りし、紙面に載せたことで、ツヨシと母の芳江は村人の冷たい視線にさらされる。


おそらく加害者家族に対する風当たりは想像以上にきついに違いない。それでも健気に父の帰りを待ち続けるツヨシの姿が涙を誘う。小学生とはいえ父の犯した罪の重さを認識し、帰ってくれば即警察に逮捕されることは分っていても、大好きだった父にひと目会いたいと願う。一方で、尾崎はそんな息子の思いを知っていて、犯罪者である自分を忘れてもらいたいばかりに消息を絶っている。お互いを思いやる気持ちがすれ違うが、離れていても決して切れない父子の絆が切ない。


岡本は贖罪の意識から尾崎を探し出し、家族に会わせる手はずを整える。その過程で警察の尾行を振り切ったりするが、トリックが初歩的だったり、尾崎の潜伏先が舞台となった唐津のすぐ先の博多だったりと、警察がすごくマヌケ。結局、尾崎は一晩だけ家族と再会を果たした後に自首するのだが、ここでも感情を押し売りするような描写は控えめで、別れのシーンなどむしろ淡々としている。もう少し登場人物それぞれの思い入れを濃く描いていれば、散漫な印象は防げたはずだ。


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