こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

神様のパズル

otello2008-06-11

神様のパズル


ポイント ★★*
DATE 08/6/7
THEATER WMKH
監督 三池崇史
ナンバー 136
出演 市原隼人/谷村美月/松本莉緒/田中幸太朗
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


宇宙に存在するあらゆるものは対称で成り立っている。正と負、物質と反物質、引力と斥力。それでは「対称」の対称は「非対称」なのか。すべては「対称」と定義すると、そこに「非対称」を内包するというパラドックス。その二律背反があったからこそ物質は消滅せずに残り、結果として星や生命、それらを観察し考える人類が生まれた。宇宙誕生の瞬間を再現すれば宇宙ができるのかという壮大な思い付きを口にした主人公が、天才少女と共に研究を重ねていく過程を通じて、人間が心に内包する宇宙の広大さに気付く。規則正しく調和の取れた宇宙よりも、矛盾と混沌に満ちた感情のほうが謎と美にあふれているのだ。


双子の弟の代わりに物理学のゼミに出席することになった基一は、17歳の若さで8の字型巨大加速器を設計したサラカを訪ね「宇宙の作り方」を共同で発表する羽目になる。一夜漬けの基一に対しサラカは膨大な演算をこなし、宇宙の初期状態の理論化を完成させる。


観測と計算と実験から結論を導き出す物理学においても、原初の宇宙は想像するしかない。観測できない以上、行き着く先は禅問答や哲学のような概念論、水掛け論に陥ってしまうのが現状なのだろう。その中でより多くの人を説得できそうな論文が生き残る。そして、なぜ発生したかという問いには、今のところ「偶然」とか「神の意思」という答えしかない。このあたりをディベートという形で延々と解説するが、非常に分かりやすく整理されていて思わずメモを取りそうになってしまう。


もちろん物理学講義が映画の目的ではなく、サラカは自分の仮説を実証するために発電所加速器をハッキングして独自に実験を始める。それは試験管で作られたという自らの出生を恨めしく思う、彼女の世間に対する復讐。しかし、基一の一途なまでのバカさが彼女の心を開くという展開は通俗的で、無理やり動きのあるクライマックスに持ってきたという感じが否めない。インドに行った弟の無駄話などを挿入するよりは、彼女の計画の準備段階をきちんと描きこんでほしかった。


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