こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ぐるりのこと。

otello2008-06-16

ぐるりのこと。

ポイント ★★★
DATE 08/6/12
THEATER シネスイッチ銀座
監督 橋口亮輔
ナンバー 140
出演 リリー・フランキー/木村多江/倍賞美津子/寺島進
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


憎悪、怒り、悲しみ、後悔・・・その他あらゆる災厄と負の思念が詰まったパンドラの箱のような法廷の中で、最後に残った希望であり続けようとするかのような主人公。世の中にあふれる悪意を強く感じれば感じるほど、精神のバランスを崩した妻を優しく受け入れるようになっていく。一組の夫婦の8年間の軌跡を追いながら、男女が心地よい関係を続けるためには何が必要かを問う。「好きだから一緒にいる」という言葉の向こうにある、胸の奥底で相手を思いやる気持ち。押し付けがましくなくそっと支えあう、激しくはないけれど馴染んでいる、そしていつもそばにいてくれる。そんなふたりの風景があたたかい気分にさせてくれる。


絵描きのカナオは口うるさい妻・翔子とつつましく暮らしていたが、刑事裁判の被告人の似顔絵を描く仕事を引き受ける。一方、翔子は生まれたばかりの子供を亡くして繊細になり、さまざまな凶悪事件に触れるうちに心のキャパシティが大きくなったカナオは彼女を包み込む。


「うまくやりたいのにできない」とパニックを起こす翔子の背中をカナオがさすり、彼女の鼻をかんでやるシーンがたまらなく切なく美しい。翔子が自分でも持て余してしまうほどの感情の爆発を、カナオは何ひとつ否定せずに受け止める。あまり生活力のなさそうなカナオが見せる人間的な懐の深さ。子供を失ったつらさは同じなのに、世間にはもっと悲惨な目にあった人がいるということを傍聴席からさんざん見つめてきたカナオは翔子よりずっと成熟しているのだ。


冒頭のセックス談義から一族集まってのバースデイパーティまで長回しのシーンが多く、その自然な会話の流れが逆に緊張感をもたらす演出は見事だ。ただ、セリフに緩急が乏しくて間延びした感は否めない。映画の時間軸をわざとゆったりと進めることで、テンポの速い作品に慣れた観客の意識に違和感をもたらそうという試みは理解できるが、それがいたずらに上映時間を長くしてしまい、結果的に弛緩した印象を覚えた。


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