こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

屋敷女

otello2008-06-26

屋敷女 A L'INTERIEUR

ポイント ★★★
DATE 08/3/27
THEATER SG
監督 アレクサンドル・バスティロ/ジュリアン・モーリー
ナンバー 75
出演 ベアトリス・ダル/アリソン・パラディ/ナタリー・ルーセル/フランソワーズ=レジス・マルシャソン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


傷口から流れる血、血管から噴き出す血、内臓から染み出る脂混じりの血・・・。凄惨なまでの血のイメージが、この映画全体を女の歪んだ情念に染めていく。おなかに宿る自分の子だけは守ろうとする母親の自覚を持った女の強さと、その子を奪おうとする女の執拗な狂気。それらがシャープな映像と陰影の濃いライティングで強調され、ヒロインが体験する恐怖が増幅される。黒い衣装に身を包んだベアトリス・ダルが死神のような殺人鬼をクールかつ不気味に演じている。


交通事故で夫を亡くした妊婦のサラは、4ヵ月後に臨月を迎える。ひとりで家にいると謎の女の訪問を受け、いつの間にかその女は家屋に侵入、寝ているサラにハサミで襲い掛かる。サラはバスルームに閉じこもるがそこで破水してしまう。


子宮の中で9ヶ月間育てた胎児は、母親にとって分身であると同時に自分の命より大切なもの。まして一度交通事故で失いかけた赤ちゃんに対する愛情が、か弱い女に過ぎなかったサラをタフに闘う妊婦に変えていく。殴られ、刺され、切られても、大きなおなかを抱えながらも武器を手にして女に立ち向かうサラの姿に、女性はわが子のためならいくらでも痛みにも耐えられるし、どんな困難にも立ち向かえるほど強くなれるということを教えられる。


女はサラの上司や駆けつけた刑事まですべて殺し、サラを追い詰めていく。女の狙いはサラのおなかにいる赤ちゃん。女は交通事故の他方の当事者で、彼女はそのときに流産していた。赤ちゃんを奪うことがサラに対する復讐、女の毅然とした態度で計画を推し進める様子は、一番大切なおなかの子を失った故の悲しみが暴走した結果なのだ。サラの腹をハサミで切り開き赤ちゃんを取り出すシーンには、目を覆いたくなるほどの残酷さ以上に女の恨みの深さがうかがえる。その気持ちは失った愛の裏返しであるだけに、血塗られたこの女の行為にもどこか理解を示したくなる。。。


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