こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

火垂るの墓

otello2008-07-05

火垂るの墓


ポイント ★★★*
DATE 08/4/11
THEATER 松竹
監督 日向寺太郎
ナンバー 88
出演 吉武怜朗/畠山彩奈/松坂慶子/松田聖子
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


両親も住む家もすべての財産も戦争に奪われてしまった少年と幼い妹。日本人全員、生きていくことに精一杯だった時代に、2人の面倒を見てくれる大人はなく、行き場を失った兄妹は運命に押しつぶされる。空襲で身近な人が死に、黒焦げになった死体を片付けるシーンに、もはや遠くなりつつある戦争の記憶がリアルに再現される。飢えだけでなく死もすぐそばにあったのだ。映画は人間の命など蛍の光ほどに儚いものであるという現実を反映し、孤児となった少年の感情を繊細に描く。


太平洋戦争末期、空襲で母が死んでしまった清太と節子の兄妹はおばの家に転がり込む。だが清太は、母の形見の着物を勝手に売ったり自分たちの食料を盗むおばと折り合いが悪くなり、追い出されてしまう。


社会的な後ろ盾を失った者が生きていくことがいかに困難か。まして小さな妹を抱えて、夜露をしのぎ食料を手に入れなければならない。ほんの数ヶ月前まで海軍将校の家族ということで物質的には裕福だった彼らが、あっという間に浮浪児に転落し、世間からは完全にはみ出してしまう。そんな状況でサバイバルする知恵が中学生にあるわけはなく、先の見えない絶望感だけが募っていく。幼い節子はよく立場を理解できないながらも、なんとなく自分たちがもう幸せな暮らしに戻れないことに気付いている。石ころをご飯に見立ててままごとをするシーンに、小さな胸に去来する死の影が感じられ、そんな節子を思いやりる清太の気持ちが切なくも哀しい。


ただ、この兄妹にはあまりひもじさが感じられない。もちろん池のそばの防空壕で生活しているから垢じみたりはしないだろうが、衣服がほころばなかったり髪型が全然変わらないのはいただけない。やがて戦争に負け、空襲はなくなるが、栄養失調になった節子は衰弱していく。彼女の遺体を埋めた後、清太にはほとんど余力が残っていない。しかし映画は清太に死ぬことを許さず、ふらふらになっても前に向かって歩かせようとする。その先に希望があるとはとても思えないのだが、それでも死ぬまでは生きようという清太の強い意志に、わずかに救われた思いがした。


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