こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

百万円と苦虫女

otello2008-07-23

百万円と苦虫女


ポイント ★★★★
DATE 08/7/19
THEATER 109MM
監督 タナダユキ
ナンバー 174
出演 蒼井優/森山未來/ピエール瀧/竹財輝之助
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


深い人間関係を築くことが苦手で、ただひっそりと生きていこうとする女。非常に内省的で、たいていのことは自分の中で完結させ、外部には迷惑をかけないかわりに干渉もされたくない。きっと一日中誰とも口を利かなくとも平気で、むしろその方が気楽と感じているのだろう。そんな過剰に気を使うがゆえにバリアを張ってしまうようなヒロインを、眉間にしわを寄せた不機嫌な表情で蒼井優が好演。結局、不器用にしか生きられないままだけれど、少しだけ成長する姿をカメラはやさしい視線でとらえる。


フリーターの鈴子は罰金刑を受けたことから実家に居づらくなり家を出ると宣言する。短期バイトで100万円貯めると次のバイトに移るという流れ者のような生活を始め、ある地方都市で中島という大学生と恋に落ちる。


人とは距離を置いていたいのに、若くて美人の鈴子を周りがほうっておかない。海の家ではナンパ男につきまとわれ、山の農家では「桃娘」になれと強要される。他人に興味を持たない以上に自分に関心を持たれることを恐れる鈴子。前科者という負い目というよりも、誇れるものが何もないということを知られるのが怖いのだ。自らを価値のないものと思い込む根拠のない自己喪失。きちんと立ち向かわず、逃げることでしか世間と折り合いを付けられない鈴子の感情が非常にリアルで共感を呼ぶ。


ホームセンターで働き始めた鈴子は初めて同類の匂いを持った中島と知り合い、彼に告白されることでやっと好きだという本心を伝える。そのときも彼女自身の「好き」という気持ちよりも「こんな私でいいのだろうか」という疑問が先に立ち、とても恋愛を楽しんでいるようには見えない。それでも中島と別れた後、わずかに彼に未練を残すあたり、彼女の中にも他者に関わろうという心がわいてきたということだろう。「人は出会うために別れる」と悟った鈴子に、あえて中島と再会させないラストは、今度こそ積極的に外の世界に目を向けて生きていけというエールなのだ。


↓その他の上映中作品はこちらから↓