こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

天安門、恋人たち

otello2008-07-30

天安門、恋人たち


ポイント ★★
DATE 08/5/20
THEATER 松竹
監督 ロウ・イエ
ナンバー 120
出演 ハオ・レイ/グォ・シャオトン/フー・リン/チャン・シャンミン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


手持ちカメラによるブレとピンボケはヒロインの不安定な心理状態を、沈んだ色彩は彼女を取り巻く世界の不透明さを象徴する。天安門事件の敗北で挫折した自由への渇望と、その傷を負ったままその後の政府主導の経済開放政策から取り残された中国の失われた世代。激動の時代の波のなかで見つけた理想の男性との出会いと別れを経て、新しい世の中に順応できずにもがく女性が、喪失感を埋めるために性遍歴を重ねる姿を通じて、経済よりも性モラルのほうがずっと先に開放されていたという実態を描く。


北京にある大学に進学したユー・ホンはチョウ・ウェイという学生と知り合い恋に落ちる。やがて学生たちの間で民主化運動が起きるが人民解放軍が介入、ユー・ホンは大学を去り、チョウ・ウェイはドイツに渡る。


田舎娘のユー・ホンが大都会で青春を謳歌する。友人とバーやクラブで騒ぎ、恋人と幸せな時間を共有する。一人でいるときは自分の心を持て余し、恋人が一緒のときはセックスにふける。それらのエピソードは明るくしようとすればいくらでもできるはずなのに、あえて彼女の内面に巣食う現在と将来への不安を強調するような色調に終始する。さらに、何度も繰り返されるアップやメリハリのない間延びしたカットは、やたら映画を長く感じさせる効果しか持たない。


’89年の天安門事件が物語の大きな転機になっているのだが、そもそもユー・ホンに革命の志があったわけではなく、刺激を求めて参加しているだけ。未来や理想を熱く語るわけでもなく、かといって燃え上がる恋の炎に身を焦がすわけでもない。ただ、流されるままにさまざまな男と身を重ねる。そんなユー・ホンの姿を、離れた場所から別の彼女が冷めた目で見つめているような距離感が、作品への感情移入を拒む。結局、この映画は全編を通じてセックス好きの女が自分の行為に言い訳をしているだけなのだ。まあ、北京では自由を求めて学生が集会を開いていたのに、自由なはずのベルリンでは労働者が団結して赤旗を振ってデモをしているという場面は皮肉は効いていたが。。。


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