こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

インクレディブル・ハルク

otello2008-08-01

インクレディブル・ハルク THE INCREDIBLE HULK


ポイント ★★★
DATE 08/7/7
THEATER ソニー
監督 ルイ・レテリエ
ナンバー 163
出演 エドワード・ノートン/リヴ・タイラー/ウィリアム・ハート/ティム・ロス
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


フォークリフトを放り投げるパワーとビルを駆け上る跳躍力、銃弾を跳ね返す硬い皮膚。巨大化した緑のモンスターが生み出す重低音を再現した迫力のサウンドが、下腹部にのめり込むような臨場感を生み出す。さらに、同等以上の体格と能力を持った敵との1対1の重量感あふれるバトルは、パンチや投げ技などの攻撃も多彩で総合格闘技を見ているよう。コントロールできない肉体を持つ主人公の苦悩よりも、理性を超越した力を持った怪物の暴力的な側面を強調することで、映画は強烈なカタルシスを味合わせてくれる。


脈拍が毎分200以上になると意識が飛んで「ハルク」に変身してしまうブルース。彼を生け捕りにしようと、ロス将軍はエミル率いる特殊部隊を送り込むが、ハルクに撃退される。ブルースは元の健康体を取り戻そうと昔の恋人・ベティがいる大学の研究室を訪ねる。


いったん変化が起きると人格が入れ替わり、無意識のうちに暴虐の限りを尽くす。自らの意思で自分をそんなフリークに変えてしまった過去はどこまでもブルース自身を追い詰める。一方で、兵士としての体力的な衰えを感じているエミルはそんなハルクの持つ破壊力に目を見張る。戦場でしか生きていけない男が一線から退かされる危機感が、より強靭な身体に憧れ、己の人格を消滅させることになっても戦士としてのプライドを優先させるところが悲哀を感じさせる。


怒りを抑制し心臓を落ち着かせるために、横隔膜を使うヨガの呼吸法をヒクソン・グレイシー扮する師匠に学ぶシーンは、戦いの中でも感情を制御して常に冷静でいることの難しさを教えてくれる。バイオテクノロジーを応用した最先端実験の失敗作で、超人的な体を手に入れたのに圧倒的な無力感に苛まれ、結局何も変わらなかったことを受け入れるしかないブルースは、再び隠遁生活に戻り他人との接触を絶つ。彼の運命は、類稀な個性を持つ者の生きにくさを象徴しているようだった。


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