こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

12人の怒れる男

otello2008-08-23

12人の怒れる男


ポイント ★★★★
DATE 08/6/23
THEATER 松竹
監督 ニキータ・ミハルコフ
ナンバー 150
出演 セルゲイ・マコヴェツキイ/ニキータ・ミハルコフ/アレクセイ・ペトレンコ/ヴィクトル・ヴェルズビツキー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


殺人事件容疑者の少年の有罪無罪を12人の陪審員が審議するうちに、圧倒的な有罪多数から論理的に話し合ううちに1人また1人意見を翻し、最後には理性が勝利するという構造はシドニー・ルメット版と同じ。そこにチェチェン問題や、法より暴力が横行するロシアの現状を盛り込んで恐るべき緊張感を生み出す。あるときは芝居を見ているような長回しのセリフ、あるときはアップと、ほとんどが閉鎖空間で進行する物語にアクセントをつける一方、少年の記憶をフラッシュバックさせてオリジナルを凌駕する社会性を生み出している。


審理が終わり、陪審員による最初の投票は11対1で有罪有利。無罪に投じた男はもう少し慎重に扱うべきと主張し、弁護士のやる気なさを指摘して無罪票がもうひとつ増える。


国際企業の経営者、タクシードライバー、建築家、TV局重役等、陪審員に選ばれた人びとがそれぞれ持論を展開していくのだが、議題とは直接関係のない身の上話が延々と続く。それらの話に教訓となるオチがあるわけではなく、ただ自分をさらけ出していく過程で彼らの生き方が浮き彫りにされていく。容疑者と同じように愛するものを失って心の傷を負った者、同じような環境でナイフ技を習得した者、まったく接点がなくても少年が置かれた状況を理解しようとする者。彼らは胸中の葛藤を吐き出すことで、少年だけでなく自身の罪深き人生をも救おうとしているかのようだ。


やがて事件自体が大きな陰謀で、不正はいたるところに転がっていることが明らかになっていく。さらに無罪放免にするとかえって少年の命を危険に晒すと気付いた陪審員たちは、とりあえず有罪にして安全を確保するほうがよいのではと揺れる。しかし、最後にそのような状態でも善意を信じられるということを示し、映画は大いなる救済をもたらす。過去の名作をなぞるだけでなく、現代の事情に合わせて換骨奪胎して同時代性を持たせるという、リメイクのお手本のような作品だった。


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