こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

小さな赤い花

otello2008-08-28

小さな赤い花

ポイント ★★*
DATE 08/6/10
THEATER 映画美学校
監督 チャン・ユアン
ナンバー 138
出演 ドン・ボウェン/ニン・ユアンユアン/チン・マンヤン/シャオ・ルイ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


一列に並んで溝の上にしゃがみ、いっせいに排便する。いかに躾とはいえ、まさしく国家による人民管理の縮図だ。さらにあらゆるルーティンは先生の笛の合図で定義され、従わない者は褒美がもらえない。そこは個人より全体が優先され、自由より服従が強いられる社会主義体制が目指す「ものを考えない国民」の製造工場だ。中国のある幼稚園、幼いころから大人=共産党に忠誠を誓うことを叩き込まれる過程を通じて、子供たちの繊細な心や想像力を抑圧することの恐ろしさを説く。


全寮制の幼稚園に入園したチアンチアンは、厳しい李先生になかなかなじめない。周りの子供たちをいじめたりケンカが絶えず、仲間はずれにされてしまう。やがてチアンチアンは李先生が妖怪だと言いふらし、他の園児と共に妖怪退治を計画する。


カメラはチアンチアンが巻き起こす騒動を少し距離を置いて描写する。確かに幼稚園児の行動は子供らしくほほえましい。だが、4歳のころの記憶をどれだけの人間が持っているのだろう。見たこと聞いたことは鮮明に覚えていても、そのときの思考や心理状態までは思い出せないはず。だからなのか、チアンチアンのアップはあっても感情を表現するようなカメラワークに乏しく、彼と気持ちを共有することができなかった。


反抗的な態度を改めないチアンチアンに対して、園長先生は「幼稚園にいるときが人生でいちばん楽しいのよ」とたしなめる。まだ繁字体が使われているところから物語の舞台は’50年代後半、当時の中国には言論統制下で本心を声にすることが許されるのは幼稚園児くらいまでだ。幼稚園を脱走したチアンチアンは、一糸乱れぬ隊列で街を歩く大人たちの胸にも赤い花が飾られてあり、良い事をしたら赤い花がもらえるというご褒美のルールが大きくなってもずっと続くことを知る。この先、文革の大波が待ち受け、民主化と経済発展はまだずっと先。石のベンチで眠り込んでしまうラストシーンは、チアンチアンの未来が決して明るいものではないことを予感させる。


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