こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

闇の子供たち

otello2008-09-01

闇の子供たち

ポイント ★★★*
DATE 08/8/30
THEATER 109KW
監督 阪本順治
ナンバー 211
出演 江口洋介/宮崎あおい/妻夫木聡/佐藤浩市
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


売春宿の用心棒が商品となる子供たちを移送中に「みなしごのバラード」を口ずさむ。彼もまた幼いころに売り飛ばされ、数え切れないほどの客を相手にしたのだろう。その歌詞の如く、あたたかい人の情けなどとは無縁に育ち、今ではボスの手先となって自分が子供たちを搾取し、虐待する側に回っている。過去から受け継がれた悪循環が未来へ連鎖していくという悲劇をワンシーンで表現する見事な演出だ。目の前の子どもを助けて良心を満足させるのか、大局を俯瞰するのか。そんな日本人同士の葛藤が偽善に思えてくるほど、当事者であるタイ人には児童買春は日常の一風景になっている。ここでは人間の値段は驚くほどに安いのだ。


バンコク駐在新聞記者の南部は、日本人の少年がタイで心臓移植手術を受けるという情報を入手する。調査を進めていくうちにドナーは脳死者ではなく健康な子供であると知り、ブローカー組織の実態を暴こうとカメラマンとともに張り込みを始める。


ジャーナリストの使命として、見たことを伝えても、介入はしないという原則を南部は守る。一方でNGOメンバーの恵子は若者らしい正義感から目の前で起きている命の売買を止めようと感情的になる。そして移植手術を阻止することは日本人少年を見殺しにすること。たとえ少年を救えても、自分のためにタイ人の子供が一人殺されたと知ればどうなるのだろうか。命の価値はみな等しいなどというお題目は、こうした現実の前では無意味だ。


やがて警察の一斉手入れが入り、売春宿の用心棒も逮捕される。連行される容疑者の中で彼だけは憑き物が落ちたように一人晴れやかな表情をしている。彼に振られた子供をいけにえにする役割は地獄に等しい心境だったはず。行き先が刑務所と分かっていても地獄からやっと抜け出せたという安堵感が漂っていた。逆に、地獄に立ち会いながら傍観者でいなければならない苦しみに耐えかねて、南部は自殺する。結局、日本人には問題提起はできても根本的な解決はできない。南部の感じた無力感がひしひしと伝わってくる力強い作品だった。


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