こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

パンダフルライフ

otello2008-09-05

パンダフルライフ

ポイント ★★*
DATE 08/9/2
THEATER WMKH
監督 毛利匡
ナンバー 213
出演
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


たらふく竹を食べては仲間とじゃれあい、弛緩した姿で昼寝をする。子供たちはミルクを飲み丸々と太った体を転がしながら遊んでいる。ぬいぐるみのように愛くるしいけれど、個体数は激減し人工施設で増加計画が進められているジャイアントパンダ。彼らの一年を通じての成長を追うと共に、ずっと動物園育ちでも本能を失っていない動物を飼育することの難しさをカメラに収める。飢えも外敵もなく、安全で快適なはずでも、ある年齢になると野生の心に目覚めるところが切ない。彼らは竹の生い茂る山に戻されるのだろうか。


和歌山の動物園で生まれ育った双子のパンダ、シュウヒンとリュウヒンは繁殖のために中国四川省のパンダ繁殖センターに送られる。そこでは生後間もない赤ちゃんから妊娠中のメスまでさまざまなパンダが24時間体勢で厳重に管理されている。


母親は双子を生むことが多いが、強いほうの子にしか授乳しようとしない。それは適者生存というルールの下でおこなわれる選別。しかし、母に見捨てられた「弱い子」も人間の手によって育てられ、無事大きくなっていく。自然の摂理に反していても、まず個体数を増やすという命題のもと、ここではどんなパンダも生きることが許される。映画は、パンダの見かけのかわいらしさや、命の大切さを必要以上に強調しないスタンスを崩さず、感情的な演出も極力抑えられていて好感が持てる。


やがてシュウヒン、リュウヒン兄弟にも別れのときが来る。誕生からずっと一緒だったのに、成獣になって縄張り意識が芽生え始めたからだ。仲のよかった2頭が突然噛み付き合いうなりをあげるケンカは、それまでの甘噛みとはまったく違う真剣勝負。負けたほうは縄張りを譲らなければならず、結局オリの内側と外側に別れてしまう。交尾、出産、子育て、そして一人前になるまで完全に人間の保護下にあるパンダたちの目に、初めて動物らしい鋭い光が宿った瞬間に、生命の力強さを感じた。


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