こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ウォンテッド

otello2008-09-25

ウォンテッド WANTED


ポイント ★★★*
DATE 08/7/10
THEATER 日比谷スカラ座
監督 ティムール・ベクマンベトフ
ナンバー 166
出演 アンジェリーナ・ジョリー/モーガン・フリーマン/ジェームズ・マカヴォイ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


数キロはなれた場所から放たれた銃弾が逆転し、銃身が直角に曲がる銃で物陰から狙撃する。さらに疾走するスポーツカーのボンネット上でエビ反って対向車をかわし、拳銃の弾道を曲げる。映画はスローモーションと特殊効果を多用して「今まで誰も見たことのない映像」を生み出すことで、圧倒的なスリルと驚きをもたらす。それはスピードよりも美しさ、激しさよりも優雅さが強調された世界。俳優たちのしなやかな動きと流麗なカメラワーク、脳漿をぶちまける弾丸や飛び散る血ですらシンフォニーの一部のような旋律を奏でるかのようだ。


さえない人生を送っていたウェズリーはフォックスという美女に命を救われたことから、フラタニティという暗殺組織に誘われる。厳しい訓練の後に暗殺術を極め、父の仇であるクロスという殺し屋を追う。


会社では上司にいびられ、恋人は同僚に寝取られ、遊びに行くカネもないという、ウェズリーの日常がリアルに再現される。そんな中で彼がふと感じる時間が止まったような瞬間。心のアンバランスではなく、アドレナリンの過剰分泌で鋭敏になるという暗殺者向けの資質なのだ。ウェズリーは組織の訓練で肉体だけでなく感覚や精神も鍛えていく。「本当はすごい才能を持っているのに誰も気づいてくれない」と思っている数多の観客の心理のツボを見事に突いた展開だ。


しかし、組織の持つ自動織機の「お告げ」が暗殺のターゲットを決めるのだが、そこに預言者が自分の名を発見したときは素直に従うことはできないだろう。明白な裏切り行為をしていたのならともかく、組織に忠誠を誓ってきたはずの人間に理由を伏せたまま死刑宣告を出すというのはいかがなものか。また、ウェズリーはクロスと対決するが予想以上に手ごわく苦戦、鉄橋での決闘では無関係な一般人を大勢犠牲にする始末。その後、衝撃の真実が明らかにされ復讐が実行されるのだが、そのあたりは駆け足でつじつまあわせの感が強い。視覚的な表現術では非常に洗練されていただけに、ストーリーをもう少しきちんと練りこんでほしかった。

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