こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

トウキョウソナタ

otello2008-10-02

トウキョウソナタ


ポイント ★★★★
DATE 08/6/24
THEATER 映画美学校
監督 黒沢清
ナンバー 151
出演 香川照之/小泉今日子/小柳友/井之脇海
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


夫婦・親子といえども所詮は他人、お互いに関心を示さず、また受け入れなければその関係は薄れていく。それぞれが隠し事をして本心を話すことをせず、たまに全員そろうことがあっても言葉は少なめで会話は弾まない食卓。本来、団欒の間であったはずのリビングルームには寂寥感が漂い、黄色系を強調した荒涼とした映像がこの家の直面する現在を物語る。展望のない未来と、澱のようにたまった過去。そこに暮らす人々が必死にもがく姿を通じて、家族には何が必要なのかを模索する。


会社をリストラされた佐々木は、妻の恵に言えず出勤するフリをしてハローワークに通う日々。長男の貴はバイトで毎日朝帰り、次男の健二は親に内緒でピアノを習い始める。そんな毎日に恵も不満がたまっている。ある日、貴が米軍に入隊すると言い出して佐々木の反対され、そのまま渡米する。


職が見つからなくても、ボランティアの炊き出しや図書館で時間をつぶし、サラリーマンのプライドであるかのようにネクタイをきちんと締める佐々木の姿が哀れだ。配給でかつての友人に出会い、彼もまた失業中であることを妻子に秘密にしている。心配をかけたくないというより、彼らが現実を直視できないだけなのだ。なんとかばれることを先延ばしにして、誰かが助けてくれるのを期待している。でも、救いの神などいないことも理解している。やり場のない気持ちを持てあます佐々木と友人の姿がリアルだ。


社会では負け組であっても息子の前では親の権威だけは失いたくない佐々木は、健二がだまってピアノを習っていたことに腹を立てて暴力をふるう。何とかバランスを保っていた家族が完全に崩壊。それでもある一日の出来事をきっかけに、再び絆を取り戻す。それはやはり帰るべき家があるから。家族が和解する場面は省略されるが、最後には健二による「月の光」のすばらしい演奏のように、明るくはなくてもはっきりと強い意思を持った希望を示してくれる。人生はその気になれば何度でもやり直せるのだと。


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