こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

女工哀歌

otello2008-10-04

女工哀歌


ポイント ★★★
DATE 08/8/5
THEATER 映画美学校
監督 ミカ・X・ペレド
ナンバー 190
出演
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


少女たちは一心にミシンをかけ、糸くずをとり、プレスする。現金収入を得るために長い旅の果てにたどり着いた都市部の工場、生産されるジーンズは世界中に輸出され、低価格で消費者に供される。一方で、徹底したコストダウンのなかで彼女たちが犠牲になっていく。徹夜作業、サービス残業、賃金の遅配、罰金、劣悪な居住環境。グローバル経済の中で、競争のしわ寄せの末端に位置する中国の労働者の姿を通じて、21世紀に蘇った搾取の実態を明らかにしていく。


四川省の農村から広東省の工業地帯に出稼ぎに来たジャスミンはジーンズ工場で糸くず取り係の職を得る。働くのはほとんどが10代の少女、彼女たちは寮で共同生活をしている。社長のラウ氏は経済自由化の波に乗って成功した元警察署長。売り上げを伸ばすために更なるノルマを従業員に課す。


まさに19世紀の欧米、20世紀の日本といった工業化を終えた西側の国々が通った道、いままさに中国が仲間入りしようと走っている。本来、労働者の団結によって社会主義革命が起きるはずなのに、労働者・農民が主役の社会主義国で堂々と行われている前近代的な資本主義的搾取というパラドックスがまかり通る。しかも、団体交渉やストといった先進国で認められている労働者の権利すら認められていない。並行して弱い立場につけ込んでもっと作業効率を上げようとする経営者の苦悩が描かれる。カメラはそんな労使双方の姿を淡々ととらえていく。


初任給を担保に取るという規則のために、ひと月働いてもジャスミンは給料がもらえない。正月の帰省もできず、母に手紙を書き、気持ちを日記に記すしかない。遅配や長時間労働への不満はあるものの、解決の糸口すらつかめず、経営側の言いなりにならざるをえないという諦観。高等教育を受けていない彼女たちは、自分たちの置かれている状況が劣悪で違法であることすら知らず、ただ手がけたジーンズをどんな人が着るのか想像を膨らませるだけなのだ。今後、この映画を見たものは格安の工業製品を買うとき、その生産現場で働いている発展途上国の労働者を思い出さずにはいられないだろう。。。


↓その他の上映中作品はこちらから↓