こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

三本木農業高校、馬術部

otello2008-10-08

三本木農業高校、馬術部

ポイント ★★★
DATE 08/8/27
THEATER 東映
監督 佐々部清
ナンバー 207
出演 長渕文音/柳葉敏郎/黒谷友香/松方弘樹
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


まだ夜も明けきらない早朝、曙をシルエットにソプラノの歌声がこだまする馬場を駆ける若者たち。馬の息は白く、馬体からは湯気が立ち上る。幻想的なほど美しいプロローグは、繊細な生き物を世話する手間と、心を通わせたときの一体感を優美に物語る。思い通りに操り、障害を飛び越えさせるには馬から信用されなければならない上に、馬は人の不安を敏感に読む。表情豊かな青森の四季を通じて、傷ついた馬と女高生が信頼を築いていく過程を余情たっぷりに描く。


三本木農業高校馬術部2年の香苗は視力が衰えた馬・コスモの飼育係だが、コスモは全然言うことを聞かない。やがて妊娠したコスモの気持ちを理解した香苗は徐々に受け入れられるようになる。そして、コスモは無事赤ちゃんを産む。


馬術という優雅なスポーツは、馬場で演技を見せるまでにどれほどの時間を費やすのかよく分る。馬に障害を飛び越えさせる練習をする一方で、飼葉や水を与え、マッサージをし、散歩に連れ出し、糞尿の後始末をする。そういった愛情をかけられてはじめて馬は人間に心を許し、その背を委ねるのだ。コスモをバカ馬呼ばわりしていた香苗が、出産を機にかわいくて仕方ないと思うようになる様子がほほえましい。しかしその後すぐにやってくる子別れ。母も子も力いっぱいいなないて悲しみを表現するシーンに、親子の絆の深さは動物も同じであると感じさせる。


3年になった香苗は最後の試合でコスモに乗ることを決意、調教を始めるが、目がほとんど見えないコスモは障害を怖がる。結局試合でも障害をひとつもクリアできずに失格する。ところがその後で観客席から湧き上がった「コスモ」コールで元気付けられ、コスモは見事なジャンプを見せるのだ。だがこれはコスモとの関係を象徴する香苗の心象風景だろう。コスモと過ごしたまばゆいばかりの高校生活、馬だけでなく他人も思いやれるようなった卒業式での香苗の成長した姿がまぶしかった。


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