こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

初恋の想い出

otello2008-10-10

初恋の想い出 情人結


ポイント ★★*
DATE 08/8/29
THEATER 映画美学校
監督 フォ・ジェンチイ
ナンバー 209
出演 ヴィッキー・チャオ/ルー・イー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


周囲との軋轢が強いほど、若いふたりの恋は燃え上がる。しかし、個人の意思よりも家の面子が重視される儒教道徳が色濃く残る中国では、親を悲しませることは許されず、ふたりの愛は押しつぶされていく。1980年代の開放政策や天安門事件、その後の急激な経済成長といった社会的背景は一切描かれず、映画は時代は変わってもふたりの気持は決して変わらないということを強調する。その中で主人公のふたりはただただ自分たちを悲劇の主人公のごとく思いこみ我が身の不運を恨むが、封建時代の価値観と戦う姿勢があってもよかったのではないだろうか。


クラス1の美少女・チーランは幼馴染で秀才のホージエと高校のころから付き合い始めるが、ホージエの母が強硬に反対する。大学に進学後もふたりは親に隠れて交際を続けるが、親同士の因縁を知り、運命を呪って心中を図る。


かつてチーランの父がホージエの父を告発したことからホージエの父が自殺したという過去があり、ホージエの母はチーラン一家を憎んでいる。また両家とも官舎に住んでいるところをみると共産党員なのだろう。心中未遂事件後ホージエは米国留学に出るが、いくら優秀でも国外留学には相当なコネが必要なはず。汚名をかぶった父を持つホージエが太いコネを築いていたとは考えられず、人知れずチーランの父が共産党幹部にホージエの留学を働きかけたというくらいの仕掛けがあれば、もう少し物語に奥行きが出たはずだ。


7年の留学後、戻ってきたホージエはあえてチーランと連絡を取ろうとはしない。チーランもいつしか心を閉ざして生活するようになっている。「ロミオとジュリエット」のように言葉にして語り合わなければ愛は成就しないということが分かっていても、「何も言わなければ何も変わらない」とふたりは愛の不変を信じている。そのあたりの中国人の結婚観はいまだに家同士の縁結びという考えが根底に流れており、その殻を突き破れないふたりの姿がもどかしくもリアルだ。ラストシーンで喜びの笑顔よりも安堵の涙を流すチーランに、結婚とは一時爆発する感情の炎ではなく、死ぬまで続く現実であることを思い起こさせられた。


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