こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

宮廷画家ゴヤは見た

otello2008-10-11

宮廷画家ゴヤは見た GOYA'S GHOSTS


ポイント ★★
DATE 08/10/4
THEATER THYK
監督 ミロス・フォアマン
ナンバー 242
出演 ハビエル・バルデム/ナタリー・ポートマン/ステラン・スカルスガルド/ランディ・クエイド
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


時代の激流で生き残るために信念を曲げざるを得なかった男と、彼に人生を奪われたにもかかわらず一途な思いを持ち続ける女。宗教支配と革命、そして反動と、激動の歴史に翻弄された男女の運命を通じて、聖職者の胡散臭さを告発する。過去を過激に否定しなければならない転向者の立場、そんな男でもただひとり情を交わした男として愛する女の悲しさ。幽鬼のように汚れた上、鎖骨が浮き出るほどやせ細り精神のバランスまで崩してしまった女をナタリー・ポートマンが好演する。


18世紀末スペイン、異端審問の強化を提唱する神父・ロレンソは豪商の娘・イネスをユダヤ教徒の容疑で拘束、拷問にかけて自白させる。イネスの父はロレンソを逆さ吊りにして釈放を約束させるが、ロレンソは反古にした挙句逃亡する。


フランス革命の波及で影響力の失墜を恐れたカソリック教会の焦り。しかし、改革より異端審問という古い手法に頼ってしまう芸のなさ。イネスの父は拷問で得た自白などナンセンスであるということをロレンソに認めさせ、すでに神の権威など失墜していることを証明する。さらにそれが上司にばれて一度はスペインを後にしたのに、ナポレオン派の手先として帰ってくると今度は教会を弾圧するという厚顔。一方でイネスが獄中で産んだ子の父が自分であると知ると、その事実を闇に葬ろうとする。どこまでも自分勝手だが、押し出しとアクの強い大きな顔の巨躯が妙な圧力となって彼の行動に説得力を持たせる。


結局、反ナポレオン派の復活でロレンソは再度失脚、死刑を宣告される。鉄環絞首刑というスペイン式の執行法がとられるが、一瞬で首の骨を砕くので見た目よりも残酷ではなさそうだ。ロレンソの遺体にいつまでもすがりつく正気を失ったイネスの姿が哀れだった。映画は、ロレンソとイネスの波瀾の半生を、ゴヤという高名な画家の目を通して描かれるのだが、別にゴヤが主役である必要はまったくなく、かえって物語のテーマをぼやけたものにしている。


↓その他の上映中作品はこちらから↓