こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

容疑者Xの献身

otello2008-10-12

容疑者Xの献身

ポイント ★★
DATE 08/10/4
THEATER 109KH
監督 西谷弘
ナンバー 241
出演 福山雅治/堤真一/松雪泰子/柴咲コウ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


仮説を立て実験を繰り返し観測結果から結論を導き出す物理学者と、すべては計算式という閉じた輪の中で思考を繰り返す数学者。前者は規模の大きさから大勢の人間が協力せざるを得ないが、後者は自己完結した世界。外部との接触を持つのは自ら新しい理論を発見し証明を公表するときだけだろう。事実を積み重ねその先の真実を突き止めようとする主人公と、あらゆる未来を予測し先手を打つ犯人。物語はふたりの駆け引きに「愛」という不確定要素を盛り込むことで意外な展開を用意するが、そこに至るまでの過程がくどい上、何のために出てきたのかわからない柴咲コウが映画のテンポを殺している。


靖子は別れた夫を殺してしまうが、隣人の数学者・石神が死体を処理した上にアリバイまで完璧に演出する。行き詰まった警察は物理学者の湯川に相談に行くが、石神は湯川の学生時代の同級生だった。湯川は靖子の後ろで石神が糸を引いていることに気づく。


石神が警察を欺くために三重四重に張りまぐらせたトリックを湯川は一枚ずつ見破っていくのだが、石神はどの程度まで自分のアイデアが通用すると思ったのだろうか。また、警察の裏をかき罠にはめるには捜査の手順や論理を知っていなければならないはずなのに、数学に身を捧げてきたような石神はどこでそんな知識を得たのだろう。数式の中で一切感情を交えず生きてきた石神が、人を愛することを知ってその理性がゆがみ、関係のない他人まで殺めてしまう狂気をもっと描いてほしかった。


やがて石神は自首し、靖子の犯行をすべてかぶることで彼女への愛を証明しようとする。このあたり、どこまでが石神の想定内だったのか。決定的な証拠を残さないことで最初はうまく警察をかわせると思っていたのか、それとも湯川という想定外の人物の登場で計画を変更せざるを得なかったのか。彼の自白は筋が通っていて警察は信用しかけるが、靖子を守るためにそこまで保険を掛けていたということか。最後の謎解きで事件の顛末は理解できても、その背景にある人間の苦悩や怒り、生きる喜びまでは感じられなかったのが残念。物理学の範疇外だから仕方ないのか。。。