こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

その土曜日、7時58分

otello2008-10-21

その土曜日、7時58分 BEFORE THE DEVIL KNOWS YOURE DEAD

ポイント ★★*
DATE 08/10/17
THEATER 恵比寿ガーデンシネマ
監督 シドニー・ルメット
ナンバー 253
出演 フィリップ・シーモア・ホフマン/イーサン・ホーク/マリサ・トメイ/アルバート・フィニー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


やってしまったことの後悔をずっと胸に秘めたまま、ずるずる時間だけが過ぎてゆく。事態は好転するどころかますますドツボにはまっていき、取り返しのつかないところまで来てしまう。そして苦渋の決断の末に破滅に向かって暴走する。杜撰な計画のせいで母親を死なせてしまった兄弟が味わう葛藤と焦り、エゴ。逆光を多用した映像は登場人物の表情の陰影を強調し、心に刻まれた苦悩の深さを浮き彫りにする。だが、その苦悩の根源があまりにも浅はかな行為に起因するところが、この作品を安っぽいメロドラマに貶めている。


アンディは弟のハンクに宝石店強盗を持ちかけ、ハンクはボビーという友人に店を襲撃させる。そこは彼らの両親が経営する店で、店番をしていた母親のナネットがボビーを射殺、彼女も銃弾を受けて死んでしまう。その後、彼らの父親・チャーリーが事件の真相に気づいていく。


誰も傷つかず、保険がかかっているから損もせず、うまくいけば簡単に大金が手に入る予定だった。ハンクもアンディも少しはルーズさがあるにしても、根は善良な市民。しかし、ナネットを死なせた事実が重くのしかかってきても、自分が助かることを第一に考えてしまう身勝手さをさらけ出す。そんな中でも一度覚悟を決めると行動に移すアンディと優柔不断なハンクという性格の違いが現れる。二人の言動を通じて、真実に直面する勇気のない人間の弱さをこれでもかとたたみかける。


犯行が息子たちの仕業と知ったときのチャーリーの心中はいかばかりか。愛と悔しさが複雑に入り交じり、やがて憎悪に支配される。それはむしろ、こんな息子たちに育てた我が身への怒りでもある。この難しい役をアルバート・フィニーは見事に演じている。ただ、時制を解体したうえにタイムスタンプを押すという編集方法のおかげで物語の緊張が途切れがちとなり、同じ局面が繰り返されてくどく感じる。起きてしまった出来事はもう元に戻せないと主張しているのだろうが、俳優の演技で表現すべき要素。もっとストレートに描いていればスピード感が出たはずだ。


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