こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ヤング@ハート

otello2008-11-13

ヤング@ハート YOUNG AT HEART

ポイント ★★*
DATE 08/8/21
THEATER KT
監督 スティーヴン・ウォーカー
ナンバー 202
出演 アイリーン・ホール/スタン・ゴールドマン/フレッド・ニトル/ドラ・モロー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


大きな口を開けてひび割れた舌を見せ、シワだらけの顔をくしゃくしゃにしてパンクロックを歌う老女。腹のそこから搾り出す声とメロディに乗って体を動かす仕草は、「老い」を受け入れ、命ある限りステージに立っていたいという彼女の切実な願いだ。映画は平均年齢が80歳という超高齢老人コーラスグループの音楽活動をドキュメンタリーにまとめ、彼らの生きる意欲を能弁に語る。何よりコンサートが決まり7週間の集中練習中にメンバーがひとりまたひとりと亡くなっていく中で、まさに死と背中合わせになりながら、最期の輝きを搾り出しているような歌声はダイレクトに心に伝わってくる。


マサチューセッツ州の小さな街の「ヤング@ハート」。週3回の練習では新曲に挑戦するが、記憶力の衰えたソロパートはなかなか歌詞が覚えられない。コーラスのリーダー・ボブは苛立ちを覚えつつも根気強く指導を続ける。


齢を重ねるのは仕方ないけれど、老け込むのは許せない。いくつになっても変化しようというスピリッツを持ち続けることで、若者のような初々しさを保っている。男を誘惑する老女、女の尻を追いかけている老人、特にフレッドという団員は心臓病で酸素ボンベを常に携帯している身だが、まるでジョン・トラボルタのように「ステイン・アライブ」を歌い踊る。彼らにとってもはや「死」とは迫りくる期限ではなく、後悔なき人生を全うするための目標なのだ。


公演当日、会場は満員になり、観客は老いも若きもヤング@ハートのリズムに乗って手拍子を打ち足を踏み鳴らす。そんな中“I feel good”という十八番を披露するが、そのときの老人たちの笑顔の美しいこと。家族や仕事というお荷物をほとんど捨て去って身軽になった彼らは、何かを始めると得るものの方が多いはず。体は命令を聞かないし頭も回転が鈍くなってきている。それでも、たとえ失敗しても失うものはない。自分で限界を作らなければ、人間はかなりのところまで能力を伸ばす可能性があることを、この作品は教えてくれる。


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