こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ハッピーフライト

otello2008-11-17

ハッピーフライト


ポイント ★★★
DATE 08/11/15
THEATER 109KH
監督 矢口史靖
ナンバー 280
出演 田辺誠一/時任三郎/綾瀬はるか/吹石一恵
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


管制塔、ターミナル、整備場、管理センター。機内だけでなく、旅客機を飛ばし乗客を無事目的地まで運ぶために空港で働く人々の姿を再現する。まるでそれぞれの現場に足を運び社会見学に来ていると錯覚させるほどのディテールは、多少の誇張はあるものの見事なリアリティを伴っている。ただ、航空会社名を前面に出す全面協力という形のため広報映画みたいになってしまい、大枠の設定に大胆な発想が取り入れられず、あっと驚く展開はない。それでも強力な魅力を放つのは、出演者にわかりやすいキャラを持たせて、みんな一生懸命働いているんだとアピールしたから。地味な題材でもエンタテインメントにしてしまうのが矢口監督の才能だ。


全日空羽田発ホノルル行に副操縦士として乗り込んだ鈴木は、厳しい指導教官のもとで操縦かんを握る。国際線初搭乗CAの斎藤は失敗を重ねながらも仕事を覚えていく。そんなとき機体の一部が損傷、飛行機は羽田に戻るはめになる。


ほとんどの登場人物は名前を紹介されず、その場を任された一人のプロとして扱われる。彼らの匿名性に強調されるように、映画の主役はあくまで旅客機を飛ばすという航空会社のシステムだ。数百人の命を預かる作業に個性は必要なく、求められるのは誰が担当につこうとも絶対に墜落させてはいけないという鉄壁の安全性。空港施設勤務やパイロット・CAには十分に訓練された者が就き、未熟な者は必ず熟練者のサポートを受ける。新人CAだけはお約束通りのヘマをするが、それは飛行機事故の危険性とは別次元のお話。さまざまなトラブルが起きても最悪の事態はめったに起こりえないということを結果的に際立たせる。


地上職員が乗客の荷物を運ぼうとして機内に一歩踏み入れた足をあわてて引っ込めるシーンがあるが、ここまで分業化は徹底されているものなのか。パイロットとCAの間にも超えてはならない一線が敷かれている。自分たちの分担は責任を持って完遂する代わりに、他の分野からの口出しは許さない。各個人の厳格なプロフェッショナルとしての矜持が航空事業を支えていることが、この作品を通じて一番強く感じられた。


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