こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ブラインドネス

otello2008-11-24

ブラインドネス BLINDNESS


ポイント ★★
DATE 08/11/22
THEATER THYK
監督 フェルナンド・メイレレス
ナンバー 285
出演 ジュリアン・ムーア/マーク・ラファロ/ダニー・グローヴァー/ガエル・ガルシア・ベルナル
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


視覚を失った人間はどういう行動をとるか。最初は絶望の余り落ち込むが、やがて慣れるといかにして生き残るかに関心が移る。周りの人間もすべて目が見えなくなっている中、理性的に協力しようとする者、自分の利益だけを考える者、力で支配しようとする者まで現れる。見かけの良し悪しが意味を持たなくなった世界では各個人のエゴがむき出しになる。そんな状況で試される人間としての値打ち。今までの価値観が無に帰し、新しい秩序を構築しなければならないとき、人はひとりでは生きていけないことを改めて実感する。


突然目が見えなくなる病気が発生、感染者は隔離施設に強制収容される。眼科医夫婦、日本人夫婦、娼婦、子供、黒人男性などが共同生活を始めるが、眼科医の妻だけはなぜか感染・発症せず、彼らの世話をする。


ただひとりの睛眼者である眼科医の妻の心境いかがなものか。盲目となった人々が平気でゴミや汚物を撒き散らして気にも留めなくなっていくのに、それらが見える。見えるがゆえにほうっておけず、必然的に集団のリーダーにならざるを得ない。しかし、彼女の行為は予定調和的で、自分の運命を受け入れるまでの葛藤や苦悩をもっと描いてほしかった。また、汚れきった建物や街の不潔さはにおいや湿度でこそ実感できるのに、それができない映画の欠点を図らずも露呈する結果となってしまった。


やがて、収容所を出た彼らは、外界の人々もすべて失明し、社会が完全に崩壊している場面に遭遇する。人々は水と食料を得るために壮絶なサバイバルを繰り広げている。ここでも眼科医の妻は見えるという圧倒的に有利な能力で仲間を守る、いわば「ノアの方舟」状態。だが、そこで彼女は新世界の指導者としての使命に目覚めていくのかと思いきや、最初に発症した日本人に視力が戻り、地球規模の失明騒動は終息に向かう。しばらくは混乱が続くだろうが、結局、また元に戻るだろうという芸のなさ。何かへの警鐘なり、教訓なりを少しぐらい残してほしかった。


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