こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

BOY A

otello2008-11-25

BOY A

ポイント ★★★*
DATE 08/11/20
THEATER シネアミューズ
監督 ジョン・クローリー
ナンバー 283
出演 アンドリュー・ガーフィールド/ピーター・ミュラン/ケイティ・リオンズ/ショーン・エヴァンス
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


いくら清算したつもりでも、執拗に追いかけてくる過去。法的にはきちんと償い、まともな人間としてやり直そうとしているのに、世間は決して忘れない。心を開いた友人も、せっかくできた恋人も、親切にしてくれていた大人たちでさえ、事実を知ると手のひらを返したように離れていく。人倫を踏み外した青年が再びもとのレールに戻ろうとしたとき、容赦なく彼に降りかかる偏見。映画は主人公の希望が絶望に変わっていく過程を通じて、人の命を奪うことで負わなければならない運命と、人が人を裁くこと赦すことの難しさを問う。


保釈が決定したエリックはジャックと名前を変えて新しい暮らしを始める。配送会社に就職、親友や彼女もできると、思い切って自分の秘密を打ち明けようとするが、保護司のテリーから厳重に戒められる。


十分に反省し、よき市民として生きていこうと努力するジャック。友人に勧められたドラッグを吐き出そうとするし、ケンカもなるべく自粛しようとする。勤務態度もマジメで、さらには交通事故に遭った少女を救助したりもする。一方で世の中の彼に対する憎しみは10数年経っても消えず、ふとしたきっかけでジャックはマスコミに消息を知られ、知人は縁を切っていく。そのどうしようもないほどの大きな恐怖、しかし、その恐怖は殺された少女が味わったものと比べるとはるかに小さいと自覚することで、彼は罪の重さを実感していく。ジャックがどこに行っても感じる監視されているような錯覚が非常にリアルだ。


冒頭でジャックは「エスケープ」という名のスニーカーをテリーからプレゼントされるが、その靴が結局ジャックの現実世界からの脱走の手助けしかできなかったというのが余りにも皮肉が効いている。刑期を務めたからといって「人殺し」が普通の市民生活をのうのうと送ることを認めない、そんな社会の厳しさが身にしみる。それでも、助けた少女からの手紙が、彼の人生も無意味でなかったことを物語るラストに、わずかに救いを見出せた。


↓その他の上映中作品はこちらから↓