こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

魔法遣いに大切なこと

otello2008-12-24

魔法遣いに大切なこと

ポイント ★★
DATE 08/10/21
THEATER シネマート
監督 中原俊
ナンバー 257
出演 山下リオ/岡田将生/田中哲司/木野花
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


魔法遣いが人間の日常生活に普通に溶け込み、国から魔法士の認定証を受ければ公務員としても働くことができる。彼らは、依頼者の言葉にできなかった思いを伝えたり形にしたりする、一種のセラピストだ。もちろん非科学的なパワーで物理的に難事を解決する時もあるが、基本は人助け。魔法を身につけながらも、過酷な運命と闘わなければならないヒロインの姿を通じて、他人を癒すのは自分を癒すことであると映画は訴える。


魔法士研修のために東京にやってきたソラは指導員と共に実地研修に出て、さまざまな人間の心にある記憶や感情の機微を知っていく。一方で落ちこぼれ研修生で同じ屋敷に下宿する豪太を意識し始める。そんな時、ソラの体に異変が起きる。


夫の遺品をずっと大切にしてきた老婆に美しい思い出を蘇らせてやったり、意識不明の母親の声を聞きたいという幼い息子の希望を実現したり、砂浜に座礁したイルカを海に帰したりと、魔法士は能力を善意のためにしか発揮しない。ソラはそうした現場に立ち会って魔法の正しい使い方を学んでいくが、描かれている世界はぬるま湯に浸かっているような緊張感のなさが漂う。それはソラ役の山下リオの演技力にも起因しているが、魔法を権力や犯罪といったエゴのために遣うものが出てこないのが作品をゆるくしている原因だ。またソラ自身、魔法士になる過程で挫折や無力感を味わったり、人間の苦悩を覗き見ることに自らの適性や限界を感じて悩んだりもしないので、自然と物語は単調になる。


やがてソラは不治の病で、残された時間はあまりないことが明らかになる。彼女は無事研修を終えてふるさとに帰り、同じ病気で逝った父親の最期の願いを叶えたあと息絶える。そこに至るまで、ソラに焦りがないのはなぜだろう。余命が短いからこそ懸命に生きようとするはずだが、ソラは死に抗わずに淡々と受け止めている。せめて豪太にだけは彼女の心に奥をすべてさらけ出して欲しかった。


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