こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

戦場のレクイエム

otello2008-12-31

戦場のレクイエム 集結號

ポイント ★★★
DATE 08/9/26
THEATER BM
監督 フォン・シャオガン
ナンバー 234
出演 チャン・ハンユー/タン・チャオ/ユエン・ウェンカン/タン・ヤン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


死にゆく者が感じる肉体の痛みと生き残った者の胸の疼き。銃弾と砲弾が飛び交う前線で、次々と部下の体が引き裂かれ息絶えていくなかでただ一人生き残った司令官は、部下の遺骨を回収するために黙々とシャベルを地に突き刺す。彼を衝き動かすのは撤退の判断を誤った自責の念と、失踪扱いされた部下の名誉を回復したいという思い。映画は、彩度を落とした映像と手持ちカメラの臨場感で戦場のリアルを再現し、落ち着いた色調で過去を取り戻そうとする男の気持ちを表現する。


国共内戦中の中国、解放軍の司令官・グーは47人の部下と共に炭鉱の守備を命じられるが、数倍の兵力を持つ国民党軍に包囲され、部隊はグーを残して全滅する。退却命令を聞いた部下のもいる中でグーは自分が正しかったかどうか自問する。


同じ状況で旧日本軍ならば、部下を全員死なせた司令官は自決するはず。しかし、中国人にその発想はないのか、炭鉱での戦闘は負け戦と知ったグーはとっさに解放軍司令官の身分を捨ててまで助かろうとする。いかにして解放軍の捕虜になった過程は省略されるが、これでは卑怯者の謗りを免れまい。その後は圧倒的な喪失感と絶望感の中ですでに意欲を失っているのに、それでも生き続けようとした原動力はなんなのだろう。汚名を雪ぐためなのか部下の面子を立てるためなのか。死ぬべきときに死ねず、知りたくないことを知ってしまった男の苦悩が感情の洪水となってほとばしる。


内戦終結後、中国人民の間に敵対意識が残っていないのが意外だった。国民党軍捕虜に解放軍が帰省費用を支給したり、国民党兵士と思われているグーを解放軍将校が砲兵として採用したり。戦いが終わってしまえば中国人同士もういがみ合う必要はないということか。そこには戦争がもたらす悲劇や憎しみよりも、やっと世の中に平和が戻ったという安ど感が漂っている。数千年の歴史の中で数多の内乱を経験し、過ぎたことは水に流すという中国人の奥深いメンタリティがよく描けていた。


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