こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

シリアの花嫁

otello2009-01-04

シリアの花嫁  THE SYRIAN BRIDE



ポイント ★★★*
DATE 08/11/4
THEATER 映画美学校
監督 エラン・リクリス
ナンバー 270
出演 ヒアム・アッバス/マクラム・J・フーリ/クララ・フーリ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


面子や建前ばかり重視して思考が硬直してしまった男たちと、既成事実を積み重ねて何とか現状を打破しようとする女たち。戒律は緩いとはいえいまだに父権が圧倒的なイスラム系の家族、これから嫁いでゆく娘の幸せを願う彼女の父と母、姉と兄たちの間で小さな諍いが起こるが、それらを乗り越えてゴールに向かう。だが、国家間の紛争という、個人の力ではどうすることもできない壁に行く手を阻まれる。映画はイスラエル占領地域に住むシリア系住民の実情を踏まえて、民族と国家のあり方を問う。


ゴラン高原に住むモナはシリア人俳優と結婚を控えているが表情は浮かない。一度シリア側に行くと二度と家族と会えなくなるからだ。そこにモナの結婚を祝うために長兄、次兄が次々と帰国し宴会が開かれる。


イスラエル占領地域のシリア系住民の多くは「無国籍」を選択していたり、分断された家族が軍事境界線越しに拡声器で安否を気遣うという現実。理不尽さに怒りながらも、一方でイスラエルの豊かな生活に慣らされている。もう40年も続く占領で住民もすっかり常態と認識しているのに、プライドだけは決して捨てようとしない。モナの父、イスラエルの警官、国境の役人など、ひとりひとりは皆善良なのに、大義の前では頑固に主張を曲げず花嫁を追い詰めていく。


そんな男たちを尻目に、何とか妥協点を見つけ出そうと努力する女たち。モナの姉は父のために警察に掛け合い、勘当された兄を父と仲直りさせようとする。PKO女性職員は何度もイスラエル側とシリア側を行き来しなんとかモナの結婚を成功させようとする。戦争を始め、法や戒律を作るのは男、しかし男たちが作った世の中に泣かされるのはいつも女たちだ。彼女たちが、今こそ硬直した世界を人間らしく変えていく行動に移すべきときであると、モナの涙は訴えている。それは、いちど政治も軍事も外交も女に任せてみれば、あらゆるの民族が平和に暮らせるようになるのではないかという、エラン・リクリス監督のメッセージだ。


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