こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

誰も守ってくれない

otello2009-01-25

誰も守ってくれない


ポイント ★★★★
DATE 09/1/24
THEATER THYK
監督 君塚良一
ナンバー 21
出演 佐藤浩市/志田未来/松田龍平/柳葉敏郎
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


平和な日常が突如として崩れていく。原因は自分にあるわけではないのに、自由と名前が奪われ、人生が暗転する。そして犯人の家族だというだけで世間からは断罪され、親子はバラバラになっていく。当事者たちが感じる現実感を伴わないまま周囲に流されていく感覚がリアルだ。映画は殺人犯の兄を持った少女がマスコミとネット社会による執拗な追跡を受ける過程を通じて、やり場のない怒りを鎮める方法を模索する。加害者は法廷で裁ける。しかし、その肉親に対してはどこまで責任を追及すべきなのだろうか。


小学生姉妹殺害犯として兄が逮捕された15歳の沙織は、容疑者家族保護マニュアルにのっとって勝浦刑事にガードされる。潜伏先をどこに変えてもすべてマスコミに知られるなか、勝浦は家族旅行で行くはずだった伊豆のペンションに沙織を匿う。


警察による家宅捜査後の裁判所・教育委員会などの事務手続きのそっけなさはリアリティにあふれ、その後の沙織を乗せた車がマスコミの追手かわすカーチェイスはスリリングと、導入部の引きは非常に強い。さらにどこに逃げてもマスコミとネットの住人に監視される恐怖がじわじわと彼らを追い詰める。あまりにも急激な運命の転落に心を閉ざすことでしか正気を保てない沙織の姿が哀れだ。


だが、君塚良一の脚本は犯罪被害者の家族を登場させ、沙織を「かわいそうな少女」から「加害者の家族」に連れ戻し、安易な同情を許さない。勝浦の家庭が崩壊寸前という伏線も、殺人事件被害者の家族が幸せになる機会など永遠にこない事実を突き付ける場面に生きてくる。結局、勝浦も沙織もどうすればよいのか答えを見つけられない。それでも、これから過酷な未来が待ち受ける沙織へ激励の意味だけでなく、他人の命は絶対に奪ってはいけないというメッセージが「生きるんだ」という勝浦の言葉に込められている。そして、勝浦が娘に買ったプレゼントの箱を沙織から受け取るシーンには、生きていてこそ感じられる希望が輝いていた。


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