こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

映画は映画だ

otello2009-02-23

映画は映画だ

ポイント ★★*
DATE 08/12/18
THEATER アスミック
監督 チャン・フン
ナンバー 307
出演 ソ・ジソプ/カン・ジファン/ホン・スヒョン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


リアリティを出せという映画監督の要望に応えるため、俳優はつい本気で相手役を殴ってしまう。血にまみれた日常を送っている本職のヤクザにとって、映画で描かれるケンカなど児戯に等しい。暴力をリアルに見せる世界に住む男が、リアルな暴力の世界に生きる男と出会ったとき、まがい物の限界を知り、真のリアルとは何かを問う。観客の求めに応じていくらリアリティを追求しようとも、結局映画は作り物に過ぎないという自虐的な叫びが、作品から聞こえてくるようだ。


アクション俳優のスタは格闘シーンの撮影で相手役に怪我を負わせてしまう。相手役の降板で撮影が止まったため、スタは元俳優のヤクザ・ガンペを相手役にスカウトするが、映画の中で真剣に殴りあうという条件を出す。


常に命がけで生きているガンペは圧倒的な強さ。スタのパンチもキックも軽くかわし、効果的に急所を狙ってくる。派手な振り付けのような偽闘とは違う、地味ながらも確実なケンカの流儀。一方で演技のぎこちないガンペが何度もNGを出しながらもOKが出たときの満足そうな顔。ほとんど上目遣いの表情を変えることがないガンペが見せる鋭い眼光が一瞬緩む場面に、この男の人間的な部分が現れて親しみが持てた。


スタもガンペもその後トラブルに見舞われるが、何とか解決して撮影は再開する。お互いに一皮向けたのだろう、クライマックスの干潟での泥だらけになりながらお互い精根尽きるまで殴りあうシーンはまさに魂と魂のぶつかり合い。この後、スタとガンペの間に友情が生まれるような甘いラストを用意するのではなく、あくまで裏社会に生きる男の厳しさを示すことで、ガンペはヤクザとしての筋を通す。しかし、ガンペの感情を殺した目つきは芝居がかっていて、これが映画の中の出来事にしか過ぎないことを思い出させてくれる。映画は映画、所詮現実を超えられないことをラストシーンは物語っているようだった。


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