こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

フィッシュストーリー

otello2009-02-24

フィッシュストーリー


ポイント ★★★
DATE 08/11/18
THEATER 朝日ホール
監督 中村義洋
ナンバー 281
出演 森山未來/多部未華子/大森南朋/伊藤淳史
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


あらゆる事象は複雑に絡み合っていて、未来は予測も付かない。それでも自分の意思で行動することによって人生は好転する。そのきっかけになった出来事が「運命」と呼ばれるのだ。なにげない出会いやふと漏らしたひと言が、時を経て世界を動かすような大事件に結びついていく。映画は終末に向かう地球を舞台に、一本の見えない糸によって導かれた人びとの転機を追う。普通に暮らしていても日々何かが起こる。そこに意義を見出せるか否かでその人間の生きる道が変わり、また変えられるのだ。


70年代、パンクロックグループ「逆鱗」は数枚のアルバムを残して解散する。82年、「逆鱗」がレコーディングした曲を聞いた気の弱い大学生が一念発起する。09年、フェリーを乗っ取ったテロ集団にコックが1人で立ち向かう。


「逆鱗」が歌った「フィッシュストリー」が巡り巡って彗星激突の危機にある地球に至るという、いわゆる「カオス効果」を扱っているが、壮大なテーマより登場人物の感情が細かく描かれる。挫折したバンド、NOといえない若者、フェリーに取り残された女子高生、中古レコード屋のオッサン。みな冴えない日常を送っているが、いつか幸運が舞い降りるのではという希望も捨てていない。中村義洋監督の優しい視点でとらえられた彼らを、つい応援したくなる。


その中で唯一、父親に「正義の味方になれ」と育てられた青年だけが異彩を放っている。幼少時からの厳しいトレーニングで心身共に鍛えていても、変化に乏しい毎日で能力を発揮する場面がないと嘆くが、シージャックに遭ってやっと活躍の場を与えられる。圧倒的な体術で乗っ取り犯を仕留め、銃弾を浴びてもまたくひるまない。臨機応変に対応するには日ごろから準備しておくべきであるという忠告だ。最後に物語はもっと時代をさかのぼり、地球を救う原因になった誤訳に行き着く。原作者の伊坂幸太郎が好んで使う「神のレシピ」という言葉の意味がこのラスト数分に凝縮されていて、運命について改めて考えさせられた。


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