こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

MILK

otello2009-03-05

MILK

ポイント ★★★
DATE 09/1/23
THEATER FS
監督 ガス・ヴァン・サント
ナンバー 20
出演 ショーン・ペン/エミール・ハーシュ/ジョシュ・ブローリン/ジェイムズ・フランコ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


無知はどれほど誤解を生み、偏見を育てるのか。多数派は常に自分たちの価値観が正しいと思いこみ、少数派を異常と決め付け、ひいては得体のしれない怪物のような妄想まで抱いてしまう。しかし、少しでも相手を知れば、性的なし好は違っても本質は変わらないことを明るく社交的でウイットに富んだ主人公は教えてくれる。マイノリティは積極的にカミングアウトして「我々も同じ人間だ」と周知して初めてその存在を認めてもらえる、そんな彼の戦術が社会の無理解を啓き、やがて個人の権利と自由を守る戦いに転化し、良識あるマジョリティまで動かしていく過程は70年代の変革する時代のうねりを見事に再現していた。


NYからサンフランシスコに恋人ともにやってきたハーヴィーはカメラ店を開き、そこはゲイのたまり場になっていく。彼はゲイ差別をなくすために市政委員に立候補、数度の落選の後に当選する。そのころからゲイを教職から追放する運動が盛んになり始める。


男同士のキスや性交などのシーンに映画の前半は違和感を覚えていたが、それはゲイ仲間を組織し、公職に挑み、世の中を変えようとするハーヴィーを見ているうちにいつしか消えていく。彼は常に前向きな考えで、まるで降りかかる難問を解決するのを楽しんでいるかのようだ。特にハーヴィーとゲイ反対派の公開討論では、反対派の論理に民主主義の危機すら連想させ、ハーヴィーの主張こそがゲイだけでなくすべての米国市民の人権を庇護することを証明する。このあたりの機転がハーヴィーを非常に魅力ある人物と印象付けている。


ハーヴィーを含め物語に登場するゲイの肉親は誰も登場しない。おそらくゲイとわかった時点で家族を捨てたか縁を切られたと思われる。そういった局面や、理性ではゲイに理解を示しても感情的にはしこりを残す普通の人などとの葛藤もあれば、もっとゲイの苦悩に共感できただろう。若い恋人の自殺に悲しむ姿だけでなく、もう少し裏の顔を見せればさらに彼を身近に感じられたはずだ。40歳を過ぎてから人生を劇的に変えたハーヴィーの生き方にはとても元気づけられたが。。。


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