こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

グラン・トリノ

otello2009-03-10

グラン・トリノ GRAN TORINO

ポイント ★★★*
DATE 09/2/3
THEATER MP
監督 クリント・イーストウッド
ナンバー 29
出演 クリント・イーストウッド/ビー・ヴァン/アーニー・ハー/クリストファー・カーリー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


朝鮮戦争に従軍した後、自動車工場で働いていた主人公はまさに米国の栄光の時代を知る生き証人。だが、その頃に身につけた誇り高さゆえ、現代の低下しきったモラルに適応できず孤独な老後を送っている。そんな頑固ジジイをC・イーストウッドが苦虫をかみつぶした表情で演じるが、この作品での頑迷ぶりは厳格さよりもむしろコミカルさを漂わせている。孫娘のヘソピ、若い神父の説教、近所の移民など身辺で起きるあらゆることに皮肉に満ちた悪態をつき、いちいち小言を口にする姿は、嫌悪感よりも親しみを感じてしまうほどお茶目だ。


妻の死後、一人暮らしを続けるウォルトはギャングに唆されて愛車を盗もうとした少年・タオを助け、その後タオの姉・スーが黒人に絡まれているところも救う。タオとスーは東南アジア少数民族出身で、彼らのパーティに招待されたウォルトは伝統と名誉を重んじる彼らの生き方に共感を覚えていく。


肺を冒され命の残り時間がわずかと悟ったウォルトは、自分の知識や経験、そして何よりもアメリカの魂を誰かに伝えたかったのだろう。実の息子たちは彼を遠ざけ、近所に白人はいない。そんなとき、まだ子供で頼りがないがまじめで根性のありそうなタオと機転の利くスーという姉弟と知り合う。勤勉でプライドもあり自省心も持っている、ウォルトは彼らこそ己の後を託す次世代にふさわしいと思ったに違いない。自慢の愛車や工具をタオに貸してウォルトは愛情を示すが、そこには失われた父と子の関係が色濃く浮き上がる。


やがて、かねてから因縁のギャングにスーが暴行され、ウォルトは復讐に立ち上がる。しかし、かつてのイーストウッド映画なら問答無用でブチ殺していたような悪党に対し、ウォルトは丸腰で立ち向かう。彼はベッドの上などではなく、男らしく死ねる場所をずっと探していたのだ。死にざまを見せることで、男はいかに生きるかをタオに教えるだけでなく、無用な人種・民族間対立も避ける。ウォルトが最期に見せた勇気と智慧はグラン・トリノとともに確実にタオに受け継がれたはずだ。それは、米国は多民族国家である以上、「正統派の米国人」の後継者は必ずしも白人でなくてもよいというイーストウッドのメッセージだ。


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