こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

風の馬

otello2009-03-11

風の馬

ポイント ★★★
DATE 09/2/27
THEATER EB
監督 ポール・ワーグナー
ナンバー 49
出演 ダドゥン/ジャンパ・ケルサン/リチャード・チャン/テイジェ・シルバーマン/ニマ・ブーティ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


空に手が届くかと思うほど空気が希薄なヒマラヤの山岳地帯、人々は祈りを書き込んだ紙きれを風に乗せる。それは風の馬という信仰深い山の民の精神的象徴。中国人の侵略を受けてから風の馬は力を失ったという嘆きに、心の持ち方次第で魂は決して死なないと天の声は答える。ただ古来からの仏教の教えを守って平和に生きている彼らを力ずくで同化しようとする中国政府と、強大な権力の前に表向きは屈しても決して誇りは捨てないチベット人。50年以上にわたる占領でチベットが置かれている現実と、人の気持ちは決して力ずくでは支配できないということを訴える。


チベット人のドルカは漢人の恋人のコネで歌手デビュー夢見ている。兄のドルジェは地下活動に身を投じるでもなく無為な日々を過ごしている。ある日、尼僧となった従妹のペマが「チベットに自由を」と往来で叫んだことから警察に拘束され、拷問、瀕死の重傷を負って釈放される。ドルジェたちは彼女を引き取り看病する。


ダライ・ラマの写真を禁じるだけでなく、その名を口にしただけで罪に問われるという過酷な弾圧。しかし、そのような政策はかえって民族主義に火をつけるだけだ。一方でドルカのように折り合いをつけ、中国語を習得して成功を夢見る若者もいる。一般的にはドルジェのように、中国にしっぽを振りたくはないが命がけで抵抗をする勇気はないという人々が大半だろう。映画はそんな、表裏を使い分けるチベット人の知恵を見せる。


だが、一番恐ろしいのはチベット人でありながら中国に協力する裏切り者たちだ。密告する僧侶だけでなく、ペマに激しく打ちすえたのもチベット人。特に警察の尋問官はペマにチベット人なのになぜ同朋を弾圧するのかと問われて激昂する。彼にとって一番触れられたくない部分、それは中国に従順なチベット人チベットを管理させるという中国側の狡猾な統治術なのだ。結局ペマの証言を国外に持ち出すという計画は失敗、ドルジェたちは逃亡を余儀なくされ、徒歩で峠を越えネパールを目指す。映像の完成度は決して高くない。それでもこの作品が98年に撮影され、描かれたことが10年以上たった今でも改善されていな事実を世界に知らしめたことは、チベット解放に向けて一歩前進させたことは確かだ。


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