こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ベルサイユの子

otello2009-03-13

ベルサイユの子 VERSAILLES

ポイント ★★*
DATE 09/1/30
THEATER FS
監督 ピエール・ショレール
ナンバー 25
出演 ギョーム・ドパルデュー/マックス・ベセット・ド・マルグレーブ/オーレ・アッティカ/パトリック・デカン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


フランス王の栄華と威容を誇るのベルサイユ宮殿。隣接する森には多数の無職者が小屋を作って夜露と寒さをしのいでいる。勝ち組と負け組みの二極化が進んだ21世紀は、もしかして絶対君主の時代よりも格差が広がっているのではと思わせる構図だ。ホームレス母子が手入れされた庭園を背景にたたずむ風景は、革命後200年以上たってもフランスが目指した理想はいまだに達成されていない現実に対する強烈な皮肉。映画はそんな社会で生きる幼い少年を軸に、一緒にいると重荷に感じ離れていると寂しくてたまらない人間関係の距離感を描く。


5歳の息子・エンゾの手を引いてねぐらを探すニーナは福祉事務所で夜を明かす。翌日、道に迷った2人はダミアンという森の住人と知り合うが、ニーナは仕事を得るためにエンゾを残して姿を消す。ダミアンは仕方なくエンゾの面倒を見るハメになる。


無職といってもダミアンは自ら望んで人生をドロップアウトした男、社会復帰のために職を探すニーナとは根本的に立場が違う。エンゾを養い、命を救われたことからダミアンは世間とのかかわりを取り戻そうとする。フォークを使えず手づかみで食事をするようなエンゾの将来を心配したのだろう、ダミアンは疎遠だった父の元にエンゾと共に住み、解体現場で槌をふるい、養父になってまでエンゾに教育を受けさせようとする。そこには血のつながりはなくても確かな親子の絆が存在したはず。ところが、期待を裏切るかのようにダミアンはエンゾを父の元に残し放浪に出る。まるでもうエンゾに対する責任は果たした言わんばかりに。


母に置き去りにされ、ダミアンにも見捨てられたエンゾの小さな胸のうちはいかばかりか。信じたものに裏切られ、もう誰も愛さなくなってしまったのか、育ててくれたダミアンの父に対しても反抗的だ。だが、物語はエンゾの気持ちにまで踏み込まず、ただ彼を戻ってきたニーナの前に投げ出すだけだ。自分の都合でエンゾの心を弄ぶニーナとダミアンの感情も掴み切れない。この曖昧さは余韻より消化不良な違和感を残す結果となった。


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