こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ウォッチメン

otello2009-03-14

ウォッチメン WATCHMEN


ポイント ★★
DATE 09/3/11
THEATER ML
監督 ザック・スナイダー
ナンバー 59
出演 ジャッキー・アール・ヘイリー/パトリック・ウィルソン/ビリー・クラダップ/マリン・アッカーマン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


まるで知覚を増幅したかのように強調される細部へのこだわりに圧倒される。肉を打ち骨を砕く格闘、そして目もくらむ壮大な火星の大地とクリスタルに輝く建造物、大迫力のNY崩壊シーン。視聴覚を刺激する映像は心の奥にダイレクトに訴えかけ、近過去とハイパーリアルとSFが見事に調合された世界観からは、少しだけ空間軸がずれたすぐ隣のパラレルワールドを覗き込むような既視感と違和感を同時に覚えてしまう。スーパーヒーローが条例で活動を禁止された時代、行き場を失った彼らはその力をどのように使うのか。さらに善と悪の境界の見えない混迷に突入した時、正義とは何なのかを問う。


かつてスーパーヒーローとして活躍した“コメディアン”が黒ずくめの男に暗殺される。事件を“ロールシャハ”が探るうちに昔の仲間であるダニエルやローリー、エイドリアン、Drマンハッタンという超能力者が深いかかわりを持っていることが判明する。


犯人は何者で何が目的なのか。物語の冒頭で作品の方向性を提示しておきながら、延々と登場人物の背景を説明する。しかもそこに費やすのは2時間42分の上映時間のうちなんと約2時間。映画が始まって約7割もの間話が停滞したままで新たな展開を見せないという恐ろしく退屈な構成をとる。そのエピソードは本筋にかすってはいるが、もっと具体的かつテンポよく進行させて早く核心に近づいてもよかったはず。「原作に忠実」が売りでも、映画化するならば原作を知らずに見ても楽しめるような脚色は必要だろう。


結局、米ソ冷戦を和平に持ち込むにあたって、エイドリアンという「天才」とDrマンハッタンという「神」が主導権争いをしていたというオチ。そこではもはや正邪の定義が無意味となっていて、全能のパワーを持つDrマンハッタンですら自分の良心に自信が持てない様子で、彼は明らかな悪人だけを始末してきたロールシャハを殺してしまう。それは価値観が定まらない現代に贈るメッセージであることは理解できるのだが、軸足の定まらないスタンスはイライラが募るばかりだった。悩めるスーパーヒーローはスパイダーマンひとりで十分だ。



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