こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

レイチェルの結婚

otello2009-03-25

レイチェルの結婚 Rachel Getting Married

ポイント ★★★*
DATE 09/3/23
THEATER SONY
監督 ジョナサン・デミ
ナンバー 69
出演 アン・ハサウェイ/ローズマリー・デウィット/デブラ・ウィンガー/ビル・アーウィン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


心の弱さを誰かのせいにせずにはいられない自己中心的な女。周囲に迷惑をかけることで自分の居場所を確認するかのように、相手にされないと淋しいくせに干渉されると悪態をつくだけでなく、仲良くしたいと願いながらも感情を抑えきれずに衝突してしまう。そんな、他人との距離感を計ることに不器用なヒロインをアン・ハサウェイが好演。彼女を見守る父と姉も、愛しているのに接し方が分らないという腰の引けた気持ちを持て余している。映画は、家族だから愛おしく、余計に憎いという屈折した思いをホームビデオ風の映像でリアルにあぶりだす。


矯正施設を出たキムは、姉・レイチェルの結婚式に出席するために家に戻る。キムを見る人々の目はよそよそしく、キムもその雰囲気に敏感になっている。父だけはキムを気遣うが、キムはその優しさが気に入らない。やがて親族友人が集まりパーティが始まる。


ところかまわずタバコに火をつけて社会からのドロップアウトを自ら公表し、どこまでわがままが許されるかを試しているようなキム。一方で彼女はかつてドラッグに溺れ、幼い弟を死なせてしまった過去を深く後悔している。傷つくことを恐れるあまり周りの人を傷つけるだけでなく、触れると壊れそうな繊細さと些細な出来事を我慢ができない甘えが、常にキムの胸の中でめまぐるしく入れ替わり、彼女自身不安定な精神状態をもてあましている。ジョナサン・デミンの演出は、どうしようもない閉塞感と緊張感が画面からあふれんばかりに張り詰めている。


式に出席するために、離婚して家を出た母親も戻ってくるが、キムは弟の死因をめぐって母親とも大喧嘩をした挙句、交通事故を起こす。結婚式当日、やっとバラバラだった一家が表面上はひとつになるが、片足でバランスをとるようなぎこちなさ。キムを避けるように帰っていく母親に、胸につかえていた言葉を伝えようとするキムの姿がわずかに救いをもたらす。もう関わりたくないと思っていても見捨てるわけにはいかない父とレイチェル、受け入れてもらいたいのに強がってしまうキム。家族であるがゆえに複雑に捻じ曲がってもつれた微妙な愛情を、デリケートなタッチで描ききっていた。


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