こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

夏時間の庭

otello2009-03-30

夏時間の庭 L'Heure d'ete


ポイント ★★*
DATE 09/3/6
THEATER KT
監督 オリヴィエ・アサイヤス
ナンバー 54
出演 ジュリエット・ビノシュ/シャルル・ベルリング/ジェレミー・レニエ/エディット・スコブ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


絵画や彫刻といったアートだけではなく、机や花瓶・クローゼットといった意匠と装飾をこらした家具調度まで保存しようとする。それらの作者やコレクターが作品に託した思いは、時に死とともに消え、あるものは受け継がれていく。物語は、母から膨大な美術・工芸品を相続した3人兄弟妹が、価値を認めながらも所有を拒む状況で、グローバリゼーションがもたらす家族の崩壊を描く。故郷を出ていった者にとって換金できない財産は面倒の種でしかなく、後始末の煩雑な手続きを嫌がる登場人物の心情がリアルだ。


パリ郊外の邸宅に住むエレーヌのもとに3人の子供が妻や子を連れて戻り、75歳の誕生日を祝う。ほどなくしてエレーヌは死に、次男と長女は海外在住を理由に相続を放棄し、長男のフレデリックは遺品のほとんどを美術館に寄贈する。


エレーヌが生前に目録を準備しておいてくれたおかげで弁護士の代行の元、遺品の処分は滞りなく進む。エレーヌにとってはかけがえのない品々も、思い入れのない子どもたちにとってはガラクタ同然。いくら親が大切にしていても趣味が合わないものは要らないというドライな処理が必要だ。そういった意味でも後始末を他人に任せるのは正解。自分の持ち物を死後どうしてほしいのかというきちんとした意思表示が、残されたものへの思いやりであるとエレーヌは身をもって示す。ただ、その過程でひとつくらい彼女の秘密が隠されたアイテムを用意し、遺族が謎を解いていくようなエピソードがないのが残念だ。


そんな中、フレデリックの娘・シルヴィーが警察沙汰を起こす。それは祖母ゆかりの品を売却・寄贈してしまった父への異議申し立てだ。その後シルヴィーは無人の屋敷に大勢の友人を招いてパーティを開くが、家は人が使ってこそ値打ちを発揮するという彼女の思いであるとともに、エレーヌとの懐かしい思い出を見知らぬ他人に渡したくないといった意思表示なのだろう。家族なかで唯一エレーヌの本心を理解するシルヴィー。ボーイフレンドに祖母の記憶を打ち明ける彼女の姿が、人の心は情景とともに語り継がれていくものであることを描いていた。

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