こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

インスタント沼

otello2009-04-01

インスタント沼

ポイント ★★*
DATE 09/3/11
THEATER KT
監督 三木聡
ナンバー 58
出演 麻生久美子/風間杜夫/加瀬亮/松坂慶子
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


目に見えるものしか相手にしないヒロインがぱっとしない人生に疲れたとき、世の中の不思議に好奇心を持ち始める。世間からちょっとずれた人々と交流を持って閉ざしていた心をオープンにし、カネでは手に入らない価値観があるとを知る。そんな、社会からドロップアウトしたOLが奇妙な骨董屋と付き合ううちに、新しい自己を見つけていく過程をコミカルに描く。しょーもないことに熱くなりながらも彼女を見守る登場人物のまなざしが温かい。


雑誌社を辞めたハナメは事故に遭った母親を見舞う。折りしも母が30年前にハナメの父に宛てた手紙が発見され、ハナメはそのあて先を訪ねるが、そこは電球というさえないオッサンが経営する骨董屋。ハナメは自分が電球の娘であることを隠して彼に近づく。


水道の蛇口を全開にして、洗面器やバスタブに水があふれる前に用事を済ましてしまう、落ち込んでいるハナメのテンションをあげるために電球が考えたゲームは、くだらないとことにも真剣に取り組めば、くよくよ悩んでいるのがバカらしくなるという電球の人生観が凝縮されていて非常に楽しめるシーンだった。また、ツタンカーメンの占いマシーンを探すときも一芝居うつなど、いたずら心を忘れない純粋さと胡散臭さが入り混じったオッサンを風間杜夫が好演している。


やがてハナメは電球から土蔵の鍵を買い、その扉を開ける。出てきたのは大量の土。ハナメはその土に水をかけ、子供の頃に招き猫を捨てた沼を再現しようとする。招き猫はハナメにとって失った子供心の象徴であり、理屈で理解できないものを信じてみるというのは夢を持つということ。微妙に曲がった錆びた釘を「素晴らしい」と思える感性こそが想像力を育て、精神に余裕を与えてくれるのだ。ひと癖もふた癖もある人々にもまれて、うだつのあがらない日常を刺激的なものに変えていくというハナメの気持ちの変遷がさわやかな印象を残す作品だった。ただ、期待していたほどに一発芸のようなギャグは炸裂しない。もう少しはじけたネタを用意して欲しかった。


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