こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

マン・オン・ワイヤー

otello2009-04-24

マン・オン・ワイヤー MAN ON WIRE


ポイント ★★★*
DATE 09/4/17
THEATER EB
監督 ジェームズ・マーシュ
ナンバー 90
出演 フィリップ・プティ/ジャン・ルイ・ブロンデュー/アニー・アリックス/バリー・グリーンハウス
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


ツインタワーの最上階にかけられた一本のワイヤーロープの上にたたずむ男。命綱はなく、バランスを崩せばそのまま400メートル余りを落下する。世界一高いビルの間を歩いて渡りたいという6年越しの夢をかなえた男の情熱だけを描くのではなく、準備期間の地道な行動を再現映像にする。綱渡りをするには、まず綱を張らなければならない。そんな当たり前のことに立ちはだかる難問。まだ完成していないツインタワーにロープや機材を密かに持ち込み、屋上から矢を放ち、ワイヤを張るまでのスリルは、ある意味、主人公のポエティックな空中歩行より、手に汗握り人間味あふれるドラマだった。


ワールドトレードセンターの建築計画を知ったフィリップ・プティは、直感に打たれたようにこれらのビルに挑戦する決意をする。手始めにノートルダム寺院の尖塔、シドニーベイブリッジを征服、その後ニューヨークで協力者と共にプランを練る。


まだ更地だった建設予定地に基礎工事がなされ、次々と外壁が組み立てられ、ビルが天を目指す。ワールドトレードセンターが徐々に形を成す建築過程のフィルムは初めて見た。物語の本筋とはあまり関係ないが、グラウンドゼロとなった現在と比較すると感慨深い。やがて上層階を残してツインタワーはオープン、ニセの身分証と書類で工事中のどさくさにまぎれて資材を搬入したり、記者と称して屋上の様子を写真に収める。


いよいよ決行の日、ツインタワーの屋上間に張られたワイヤーにフィリップは一歩を踏み出す。その姿は写真のみで動画はないのだが、ややかすみかかった遠景にシルエットとなって浮かび上がるフィリップは神々しさすら感じる。それは誰も思いつかなかったこと、そして誰にも真似のできないことのゴール。失敗して命を落とすことなど微塵も心に浮かべていないかのように自分だけの世界に陶酔し、他人の手が一切届かない自由を謳歌していた。やりたいと思ったことを実行に移し、最後までやり遂げる。それがばかげいればいるほど、人生を賭けるフィリップの行動力がうらやましくなる。


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