こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

余命1ヶ月の花嫁

otello2009-05-12

余命1ヶ月の花嫁


ポイント ★★
DATE 09/5/9
THEATER 109KH
監督 廣木隆一
ナンバー 109
出演 榮倉奈々/瑛太/手塚理美/安田美沙子
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


乳がん、恋人の献身、憧れのウェディングドレス、永遠の別れ。涙腺を刺激する要素が満載なのに、あえてくどい演出はせず、カメラは淡々と若い二人を見つめる。繰り返されるアップ、長めのカット、感情を抑えたセリフ回しなど、どこか間延びした映像はドキュメンタリー番組を意識したのか。しかし、実話に基づいているといっても劇映画にするのならば、もっと劇的な構成で物語を盛り上げるべきだ。エピソードにも緩急が乏しく、もう少し煮詰めた内容にする必要があった。


イベント会場で知り合った太郎と千恵は交際を始める。ある日毛髪が抜け始めたのをきっかけに、千恵は乳がんであることを太郎に告白し、姿を消す。屋久島で千恵を見つけた太郎は最期まで千恵の面倒をみると約束するが、ほどなく千恵のがんが再発、余命1ケ月と宣告される。


自分の体が病魔に蝕まれていく千恵は、ベッドの上でどんな気持ちだったのだろうか。美しかった思い出、やったことやらなかったことへの後悔、太郎と愛しあった記憶、そして何より確実に迫りくる死の恐怖。だが、それらのディテールが描かれることはほとんどなく、千恵は目の前のことにしか興味がなさそう。一方の太郎も何故千恵にこれほどまで人生を捧げる気になれるのか。彼らの幸福を描くシーンはままごとのような同棲生活と気の抜けたデートシーンだけで、ふたりの間に強烈な共通体験がないので、彼らの絆に共感を覚えない。


もはや末期にもかかわらず、千恵の健康そうな外見はどうしたものか。顔や指先に手入れが行き届いていて、まったく病人には見えない。リアリティよりも彼女の夢を追及しているのかもしれないが、がんという病気の恐ろしさには無関心。さらに、クライマックスの結婚式を無事終えた後も、わざわざ彼女の臨終や遺言ビデオなどを挿入する。こんな無駄なシーンで上映時間を引き延ばすより、出会いの場であるイベント会場で太郎が千恵の声を聞いたような気がするラストシーンにいきなり飛んだほうが、よほど余韻が残ったはずだ。。。


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