こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

サガン −悲しみよ こんにちは−

otello2009-05-14

サガン −悲しみよ こんにちは−

ポイント ★★★
DATE 09/4/28
THEATER SG
監督 ディアーヌ・キュリス
ナンバー 100
出演 シルヴィ・テステュー/ピエール・パルマード/ジャンヌ・バリバール
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


誰もがうらやむような富と名声を手に入れた先にあったものは孤独。成功と挫折、恋愛と破局、大儲けと破産、それらを何度も繰り返すヒロインの私生活は、才能に溢れ、大衆に支持され、時代の寵児として君臨した作家としての顔とは正反対の侘しさだ。あまりにも自分に正直だったゆえに、愛することも生きることも不器用だった女の栄光と転落の人生をリアルに再現する。苦悩に満ちた彼女の後半生は幸福よりも悲しみに出会うことの多い、デビュー作のタイトルそのもののような生き方だった。


18歳で書き上げた「悲しみよこんにちは」が大ヒットして一躍有名になったサガンは、取り巻き連中と贅沢三昧の日々。ある日、新作を批評されて動揺し、自動車を猛スピードで走らせた挙句に事故を起こし、瀕死の重傷を負う。退院後、献身的な看病を続けた出版エージェントのギイと結婚する。


莫大な印税の使い方に迷っていたサガンに、「その年齢なら全部使い切れ」と父親がアドバイスする。決して将来に備えて貯金しろなどとは言わずに、娘を見守る父。それはカネが人を自由にする反面、限度を超えると逆に縛り付けられるという魔力を知っている経営者だからこそ発する言葉だ。しかしサガンは度重なる財政的危機から何も学ばず、借金だらけになっても浪費を止めない。彼女の作品の洗練と倦怠は父親から受け継いだと思わせる象徴的なシーンだった。


映画はサガンのクリエーターとしての創作の苦しみや完成の喜びとは無縁に、新時代のアイコンからカルチャーの担い手となり、やがてひっそりと忘れられてしまうまでのスキャンダラスな側面を追う。その間、時間の流れは一切説明されず、外見だけでサガンの年齢を推測しなければならない。若々しく希望に満ちた18歳から、不幸続きの中年時代、そして死の間近まで彼女を演じたシルヴィ・テステューは、加齢による肉体的精神的変化を表情やメイ・身のこなしだけでなく、声の質まで低くして見事に演じきっていた。


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