こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

イサム・カタヤマ=アルチザナル・ライフ

otello2009-05-17

イサム・カタヤマ=アルチザナル・ライフ

ポイント ★★
DATE 09/5/13
THEATER EB
監督 牧野耕一
ナンバー 112
出演 片山勇/谷中敦/GAMO/田中友之
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


肩まで伸ばした縮れた長髪に濃いひげ、革ジャンに身を包みタバコをふかす。一見、パンクロッカー風のいでたちは、通りを歩いていると人々が思わず避ける。まさに反体制のシンボルといった風貌なのだが、考え方はあくまで人間同士のつながりを重視する非常に古風なもの。レザーファッションをアートの域にまで高めて世界中のセレブに顧客を持つ男の熱い生き方を通じて、プロフェショナルとしての仕事の本質に迫る。


小さな工場で数人の従業員だけで革製品を生産する片山。ミラノやパリのコレクションに出品する一方、バイヤーとの打ち合わせに忙殺される。仕事が終わった後は従業員たちと飲みに出かけ、人生を語る。彼らは皆、片山の人間的魅力に引き寄せられて一緒に働いているファミリーのような存在。片山は革に生きる決意をした父との思い出を語り始める。


どんな相手にもまっすぐに自分の魂をぶつけていく。それが片山流。「純粋に生きなければ直感は沸かない」という彼の言葉に象徴されるように、仕事中だけでなく、家族とのひと時、仲間との飲み会、生活のあらゆる場面で全力投球しているかのよう。そのエネルギーは尽きることなく、いつも本音で語る彼は交友関係も広い。また「相手の気持ちを考えられるのがいい男の条件」というように、相手も腹を割れば、必ずそれに答えてくれる度量の大きさも持ち合わせる。そんな片山の矜持は「かっこいいと自分で言える仕事をやっていること」。だからこそ、素材選びからデザイン、製造工程に一切手を抜かず、家内制手工業のよさが製品に反映されるのだ。


しかし、カメラは片山の仕事先や居酒屋、友人たちについて回るだけで、彼がいかにして革素材の世界を極めたかには言及しない。仕事に対する厳しさはインタビューではなく彼の行動で見せるべきだろう。しかも、サイケ調の色彩の映像や短いカットの連続はミュージックビデオを見ているよう。導入部だけならまだしも、全編同じトーンなのは疲れる。片山の作品世界を表現しようとしたのは理解できるが、ドキュメンタリーにこの手法はかなりの違和感があった。


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