こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

天使と悪魔

otello2009-05-18

天使と悪魔 ANGELS & DEMONS

ポイント ★★*
DATE 09/5/15
THEATER THYK
監督 ロン・ハワード
ナンバー 114
出演 トム・ハンクス/ユアン・マクレガー/アイェレット・ゾラー/アーミン・ミューラー=スタール
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


人間の叡智が神のなせる業を再現する。あくまで神の存在を至高のものと考える宗教家にとって、宇宙の始まりともいえる物質の誕生を生成する実験は許しがたいもの。科学と宗教、ガリレオの時代以来の対立を軸に、現代によみがえった復讐の炎がローマに降り注ぐ。映画は主人公をヴァチカンの奥から膨大な地下アーカイブ、ローマ市内の旧跡を走り回らせて息もつかせぬ展開を見せる。謎が新たな謎を呼び、タイムリミットが刻々と迫る。その圧倒的なスピードと情報量の多さはストーリーの矛盾を感じさせる暇を与えず、一気にラストのどんでん返しにまで持っていく。


宇宙の素である反物質が奪われる。折しもヴァチカンでは新教皇選出会議・コンクラーベの最中、4人の枢機卿が誘拐され、イルミナティという組織から彼らの処刑と反物質による大爆発を予告した脅迫状が届けられる。かくして、宗教記号学者のラングドンがヴァチカンに召集される。


2千年に及ぶローマの歴史と、いまだ現存して機能している石造りの建物の数々は美術館さながらだ。さらにサン・ピエトロ寺院内でおこなわれる厳粛な宗教儀礼と、地下に隠された超近代的な設備。歴史と伝統を順守する表の顔とハイテク武装する裏舞台の対比は、そのまま宗教と科学だ。現実的には折り合いをつけているのに、心情的には神の優位を脅かすものは絶対に認められない、そんな教皇の代理人・カメルレンゴはカトリックの本音を象徴しているようだ。しかし、複雑難解な暗号記号を解いていく過程が知的興奮に満ちていた原作と違い、あまりにも直観的にラングドンが正解を得るという映画的処理は時間的制約があるにしても物足りない。まあ、あまりにもありえないラングドンフリーダイビングは映画では割愛されていて安心したが。


ラングドンの活躍とカメルレンゴの英雄的行為でヴァチカンは救われるのだが、物語のオチは取ってつけたようだ。そもそもカメルレンゴは反物質をどうするつもりだったのか。最初から上空で爆発させる予定にしては、ヘリが用意されているかどうかなどの不確定要素に頼りすぎだし、ヴァチカンとともに心中する気だったようにも見えない。カメルレンゴの計画の杜撰さに気づいたときにはエンドロールが始まっているので、心地よくだまされた気にはなったが。。。


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