こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

鈍獣

otello2009-05-20

鈍獣

ポイント ★★*
DATE 09/5/16
THEATER THYK
監督 細野ひで晃
ナンバー 116
出演 浅野忠信/北村一輝/真木よう子/佐津川愛美
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


死んだ人間の怨念なのか、トラウマが生んだ幻影なのか。地方都市でくすぶっている人々の元に、東京で名を上げた同級生が帰ってくる。別に成功を見せびらかすわけでもなく、旧交をあたためようとしているだけなのに、その男の言動にいちいち過剰反応してしまう。苦い過去はおくびにも出さず、それがかえっていじめていた側には不気味に思えてくる。映画は遠い昔に封印した記憶というパンドラの箱を開けてしまった男たちが遭遇する災難と不条理をポップな感性で描く。


失踪した作家・凸川を追って彼の故郷にやってきた編集者の静は、凸川の小学校時代の同級生・江田が経営するホストクラブを訪れる。そこで江田と江田の友人・岡本、江田の愛人・順子、従業員のノラといった怪しげな人物から、凸川の思い出話を聞かされる。


デコヤンと呼ばれていた凸川はあくまで明るさを失わず、江田や岡本に対してフレンドリーな態度を崩さない。おまけに、かつていじめられたことは覚えていないと答えるのに、いじめにあった少年時代を微細に描いた週刊誌の連載小説で文学賞にノミネートされている。陽気で明るいのにまったく思考も感情も読めないデコヤンを、浅野忠信がテンションの高い演技でコミカルかつミステリアスに演じる。


毒を盛ったり車で轢いたり、江田と岡本は小説の執筆を止めさせるため何度もデコヤンを殺そうとするが、決してデコヤンは死なない。後半になると、デコヤンの邪気のない笑顔は、逆に悪魔の微笑みのように見え始め、さらに心理的な負い目を感じている2人を追い詰めていく。特に悪人ではなくとも、他人を傷つけた経験は誰にでもある。デコヤンは江田と岡本の良心の痛みが具現化したものだろう。最後に江田がデコヤンのことをウルフと呼ぶことで、やっとデコヤンはトラウマを取り除き、成仏できたはず。デコヤンもきっと寂しかったのだ、理性を超えた領域に訴えるデコヤンの悲しみを通じて、人の孤独が切々語られていた。


↓メルマガ登録はこちらから↓