こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

南極料理人

otello2009-06-14

南極料理人


ポイント ★★★★
DATE 09/6/10
THEATER TTS
監督 堺雅人/生瀬勝久/きたろう/高良健吾/豊原功補
ナンバー 137
出演 沖田修一
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


果てしなく続く雪原と雲ひとつない青空。まったく変化のない風景の中で暮らす人々にとって唯一の楽しみは食事だ。孤立した状況の限られた人間関係、任期を終えるまでは決して抜け出せない閉塞感、単調で変わり映えしない業務、ほとんどないに等しい娯楽。隊員たちは皆何らかのフラストレーションをかかえている。そんな彼らの心に、時季折々の豪華な料理で少しでも潤いを取り戻させようとする料理人の優しいまなざしがあたたかい。セリフの間と人物配置の構図が精密に計算された演出は、ほのかなユーモアの中で人情の琴線に触れる効果を生み、非日常が日常となった男たちの感情をリアルに再現している。


1997年、南極越冬観測隊のコックとして派遣された西村は、隊員たちの食事に腕を振るう日々。バックグラウンドも任務も年齢も違う7人の男たちの栄養面の面倒を見ている。仕事を楽しむ者、左遷されたと悲しむ者、退屈でノイローゼになる者、あまり喜怒哀楽を表に出さない者、西村はそれぞれ個性の強い隊員たちの胃袋を満たしていく。


西村が手をかけた料理を作るのはおそらくイベントがあるときだけなのだろう。和食会席からフレンチフルコース、巨大ステーキ、中華の大皿と、レパートリーは多彩で、すべてよだれが出そうになるくらい本格的だ。しかし、隊員たちが一番喜んだのがラーメン。西村が材料を工夫して打った麺を全員ですするシーンは、普通に食事できる幸せと、その幸せを誰かと共有することでさらなる満足感が得られると実感させてくれる。物言わずひたすら箸を動かす隊長の表情が素晴らしい。


屁をこいた父親の尻を思い切り蹴飛ばす娘やから揚げも満足に揚げられない妻など、西村の不満があっても平和な記憶の描写を時折挟み込んで、離れて生活する家族の存在を際立たせる。それは、娘の歯をなくしたり、隊員が作った脂っこいから上げを口にしたとき、西村の脳裏に鮮明に蘇る。帰国後、妻子と遊びにいった遊園地の不味そうなハンバーガーに「うまい」と叫ぶラストシーンに、この映画は一方で家族の物語であること強烈に意識させられた。


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