こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

幸せはシャンソニア劇場から

otello2009-06-17

幸せはシャンソニア劇場から

ポイント ★★★*
DATE 09/6/12
THEATER KT
監督 クリストフ・バラティエ
ナンバー 139
出演 ジェラール・ジュニョ/カド・メラッ/クロヴィス・コルニアック/ノラ・アルネゼデール
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


うっすらと雪化粧をほどこした石畳、背景にエッフェル塔を従えたメトロの駅、狭い階段と肩を寄せ合うように立つアパルトメント。名もなき下町、そこで寝起きしそこで働く人々の、人生そのものが凝縮されたようなパリの体温が強烈に伝わってくる。それはお高くとまった香水の匂いではなく、庶民の労働が発する体臭ような泥臭さ。映画は夢と友情、恋と家族といった人情味あふれる人間模様を描きつつ、戦争とファシズムの影におびえるパリジャンたちの姿を活写する。彼らが演じる大衆芸能は文化の香りすら漂わせ、どんなに貧しくても心の余裕を失わないフランス人の誇り高さを感じさせる。


借金のカタに、不動産屋・ギャラビアに差し押さえられたシャンソニア劇場を自主再建させようと、ピゴワル、ジャッキー、ミルーらは劇場を改装する。オーディションを受けにきたドゥースはギャラビアのおかげでステージに立つことを許され、歌唱力が高く評価される。一方、労働者のストと右翼の台頭で社会情勢は混迷を極めていた。


世界恐慌の真っただ中、劇場は失業者の希望の星のように扱われるがドゥースの歌以外売り物がなく、ドゥースも引き抜かれて瞬く間に行き詰まる。その間、ピゴワル父子の切ない関係やミルーとドゥースの恋、ギャラビアの横槍、さらに引きこもり男だけが知るドゥースの出生の秘密など、盛りだくさんのエピソードが展開する。その起点になる感情は常に愛。カメラは登場人物が胸に抱く喜怒哀楽をきめ細かく捕え、暗い世相の中で精一杯生きる様子をスケッチする。


特にピゴワルが息子と再会するシーンが素晴らしい。アパートの窓の下で仲間が歌い息子がアコーディオンを奏でる。物音に気付いたピゴワルが窓から顔を出すと、ずっと会いたがっていた息子が現れる。涙線を刺激するツボを心得た演出だった。やがてドゥースと作曲家の復帰で劇場は盛況を取り戻す。舞台で繰り広げられるミュージカルは、ほんのひと時でいいから暗い現実を忘れ夢の世界を楽しんでもらおうという芸人魂が見事に昇華されていた。


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