こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

劔岳 点の記

otello2009-06-24

劔岳 点の記

ポイント ★★★*
DATE 09/6/22
THEATER 渋谷TOEI1
監督 木村大作
ナンバー 147
出演 浅野忠信/香川照/松田龍平/仲村トオル
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


足元の不安定な雪原を渡り、ほぼ垂直に切り取ったごとく峻険な岩山を登った先で目にするのは、はるか眼下に広がる雲海の先に沈み行く夕日。厳粛な気分にさせてくれるワンシーンを撮るために費やした労力はいかほどのものか。この作品の製作者たちが、主人公となった測量隊の苦労を共に味わおうとしているかのような気迫のこもった映像は、思わず姿勢を正してしまうほどの荘厳な美しさだ。映画は未踏峰三角点を設置するという使命を帯びた測量隊と、山頂の征服が目的の山嶽会メンバーの「初登頂」レースを通じて、仕事に生きるとはどういうことかを問う。


日本に唯一残った処女峰・劔岳三角点を設置せよとの指令を陸軍測量部から受けた柴崎は、早速準備にかかる。地元の村人・長次郎に案内を頼み、予備調査で登山口を探す。翌年、測量隊と共に山に入るが、想像を絶する自然の猛威が待ち受けていた。


山嶽会のエントリーで劔岳初登頂は陸軍の威信をかけた至上命令となるが、柴崎は淡々とその地域の山々に三角点を設置していくのみ。そこには、名を残そうとか賞賛を得ようとかいった私利私欲はまったくなく、ただ測量が自分の仕事であり、与えられた任務に忠実であろうとする。喜怒哀楽をほとんど表に出さず、隊員の安全に気を配りながら、慎重な中にも時に大胆に行動する、そんな明治男の気概を持った柴崎という男を浅野忠信が抑えた演技で好演している。


やがて、難ルートを攻め山嶽会よりも先に劔岳を到達した測量隊は、頂上で錫丈を見つけ、すでに大昔にこの山に人の手が入っていた事実を知る。とんだ赤恥をかいた陸軍測量部の幹部は柴崎らの「初登頂」をなかったことにしようとする。しかし、柴崎は一喜一憂を顔に出さない。「何をしたかではなく、何のためにしたかが大事なんだ」という言葉に凝縮された柴崎の信念、それは日本地図製作にかかわった数多くの無名の測量員の気持ちであると共に、彼らの業績は地図として長く後世に残り人々の役に立つという自負から生まれるのだ。プロ意識とは何かを教えられた気がした。


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